第三十八話 削られていく
【金曜日 11:03/東柵】
雨は弱くなっていた。
だが。
空気は悪化していた。
泥。
血。
疲労。
皆、かなり限界へ近づいている。
「左寄った!」
「押し返せ!」
ガンツが槍を振るう。
一匹。
喉を貫く。
だが。
ゴブリン達はまた引いた。
森へ消える。
「……またか」
追えない。
追う余裕が無い。
しかも。
消えたと思うと別方向へ出る。
嫌な戦いだった。
体力だけ削られる。
◇
【金曜日 11:11/広場】
「水!」
「包帯足りません!」
「火落ちます!」
叫び声が止まらない。
リリアは怪我人を見続けていた。
額の傷。
骨折。
裂傷。
軽傷ばかりだったものが、
少しずつ重くなってきている。
その時。
「リリア!」
村人が駆け込む。
「薬草箱、崩れた棚の下です!」
リリアの動きが止まる。
かなり痛い。
あの箱には止血用が多い。
「掘り出しますか!?」
周囲が聞く。
だが。
リリアは答えられなかった。
今、人を割けば。
広場が止まる。
でも放置すれば。
後で苦しくなる。
その時。
怪我人の呻き声。
リリアは目を閉じる。
「……今は治療優先です」
静かな声。
でも。
かなり苦しかった。
自分で、
切った。
◇
【金曜日 11:18/倉庫前】
ミナは崩れた棚を見ていた。
泥まみれの保存袋。
濡れた干し肉。
壊れた木箱。
かなり失った。
「ミナ!」
「……何」
「北火台また弱い!」
「……分かった」
足が重い。
疲労だけじゃない。
判断疲れだった。
何を優先する。
何を捨てる。
ずっとそれを迫られる。
しかも。
正解が分からない。
◇
【金曜日 11:26/見張り台】
ガンツが森を睨む。
黄色い目。
まだいる。
数も減っていない。
むしろ。
こちらの消耗を待っているようだった。
「ガンツ……」
若い見張りの声が震える。
「これ、いつまで……」
「知らねぇよ」
本音だった。
終わりが見えない。
その時。
森奥。
片目の大柄ゴブリンが立っていた。
動かない。
ただ。
見ている。
村を。
疲労を。
崩れ方を。
ガンツの背筋へ寒気が走る。
「……あいつか」
頭だった。
多分。
今のゴブリン達を動かしてる。
そして。
かなり嫌なタイプだ。
◇
【金曜日 11:34/広場中央】
村長は広場を見渡していた。
火。
怪我人。
疲弊した村人。
崩れた倉庫。
全部少しずつ悪くなっている。
終わってはいない。
でも。
確実に削られていた。
その時。
ミナが小さく言う。
「……回し屋なら」
続きが出ない。
もう。
皆同じことを考えていた。
あの人なら。
多分。
どこを切るか決めてる。
どこを守るか決めてる。
誰を動かすか決めてる。
だから。
止まらなかった。
村長は静かに目を閉じる。
「……便利だった、
ではありませんな」
誰も答えない。
答えられない。
もう。
皆、気づき始めていた。
回し屋は、
皆が止まらないように。
一人で考え続けていたのだと。




