第四話 壊れる場所
土曜日 01:41/ミナの家】
「……まだ危ないって、どういう意味?」
ミナの声が低くなる。
相沢は少し迷った。
自分でも、今見えているものをどう説明すればいいのか分からない。
頭の中に、村の構造が浮かんでいる。
地図みたいに。
いや、それよりもっと感覚的だ。
人の流れ。
荷物の滞留。
逃げ道。
弱い場所。
そこへ“赤い違和感”みたいなものが浮いている。
「……見えるんだ」
「何が?」
「崩れる場所」
ミナが眉をひそめる。
「意味分かんない」
「俺も分からない」
本当にそうだった。
だが、分かることもある。
例えば。
「入口の柵、右側だけ補修してるだろ」
「え?」
「左側は古い。腐りかけてる」
「……何で知ってるの」
「見えた」
「怖っ」
即答だった。
だがミナの顔から、少しずつ警戒が消えていく。
代わりに、不安が浮かんでいた。
「他には?」
相沢は目を閉じる。
村の構造。
線。
流れ。
そして。
「倉庫」
「倉庫?」
「食料の置き方が悪い」
「……分かるの?」
「湿気が偏ってる。多分、腐る」
ミナが黙った。
「あと、井戸周り」
「井戸?」
「人が集まりすぎる」
「それは……」
ミナが言葉を止める。
「朝、いつも揉める」
図星らしい。
相沢は深く息を吐いた。
頭痛がまだ残っている。
だが、理解もあった。
このスキル。
多分、
“構造的に壊れる場所”
を見せてくる。
人間関係か。
物流か。
建物か。
分からない。
でも、危ない場所だけは異様に分かった。
「……アイザワ」
「何だ」
「やっぱり変」
「知ってる」
「でも」
ミナが少しだけ視線を逸らす。
「ちょっと頼りになる」
その言葉に、相沢は妙に詰まった。
会社では、頼られることはある。
だがそれは、
“仕事を押しつけられる”
に近い。
今の言葉は、少し違った。
「……スープできた」
ミナが鍋を持ってくる。
木の器に注がれた野菜スープ。
湯気。
塩気の匂い。
空腹が一気に襲ってきた。
一口飲む。
温かい。
味は薄い。
だが、疲れた体に染みた。
「うまい」
「ほんと?」
「ああ」
ミナが少し笑う。
「よかった」
その時。
家の外から、重い足音がした。
ドン、ドン、と地面を踏むような音。
「……ガンツ?」
ミナが立ち上がる。
扉が開いた。
案の定、ガンツだった。
「おう、いたか」
斧は置いてきたらしい。
だが、まだ血の匂いが残っている。
「どうしたの?」
「村長が呼んでる」
「俺を?」
「ああ、アイザワをな」
ガンツは腕を組む。
「変な奴だが、変な奴だからこそ話を聞きたいらしいぜ」
「褒めてる?」
「知らん」
相沢は器を置いた。
疲れている。
正直、寝たい。
だが。
頭の中では、まだ村の弱点が浮かび続けていた。
入口。
倉庫。
井戸。
そして。
森側。
(……?)
違和感。
村の北側。
線が妙に薄い。
何かある。
その時。
【警告】
視界に赤い文字。
【集落北側防衛強度:低】
【推定侵入率:高】
「……は?」
「また変な顔した」
ミナが不安そうに言う。
相沢は立ち上がった。
「北側に柵あるか」
「え?」
「村の北」
「あるけど……ほとんど使わないわよ」
「今すぐ見たい」
ガンツが目を細める。
「何か分かったのか」
相沢は数秒迷った。
言っても信じてもらえない気がする。
だが。
「多分、次に壊れる」
空気が変わった。
ガンツの顔から笑いが消える。
「……行くぞ」
低い声だった。
ミナも真顔になる。
夜風が吹く。
遠くで犬みたいな鳴き声がした。
そして相沢は気づく。
自分はもう、
完全に巻き込まれている。




