第三十四話 増えていく問題
【金曜日 08:02/村・広場】
火が増えていた。
広場。
倉庫前。
柵付近。
以前より明るい。
以前より動いている。
だが。
空気は重かった。
「森側、三!」
「いや四だ!」
見張りの声が飛ぶ。
ガンツが即座に指示する。
「槍持ちは東!」
「子供は中央寄せろ!」
「火切らすな!」
皆、動く。
ちゃんと。
前なら混乱していた。
でも今は違う。
問題が起きた時、
“何もしない”
人間が減っていた。
◇
【金曜日 08:11/倉庫前】
「こっち濡れてる!」
「布持ってきて!」
ミナが叫ぶ。
空を見る。
灰色。
嫌な天気だった。
「雨来るかも……」
倉庫裏では、リリアが薬草箱を動かしていた。
「湿気が入る前に上へ動かしましょう」
「はい!」
村人たちが従う。
ちゃんと考えている。
保存。
順番。
傷み。
回し屋がうるさく言っていたことを、皆少しずつ覚え始めていた。
だが。
問題は増えていた。
「ミナ!」
若い村人が走ってくる。
「南柵、一部壊れてる!」
「はぁ!?」
「昨日の雨で!」
ミナの顔が歪む。
防衛。
倉庫。
避難。
今度は柵。
「……もう次から次だなぁ!」
思わず漏れる。
◇
【金曜日 08:24/見張り台】
「また増えた」
ガンツが低く言う。
森。
木々の間。
気配。
完全に囲うように動いていた。
「普通じゃねぇ」
若い見張りの顔が青い。
「何で来ないんです?」
「……見てるからだ」
「え?」
「こっちの動き」
ガンツは森を睨む。
気持ち悪かった。
火を増やせば散る。
人を動かせば位置を変える。
反応している。
まるで。
試しているみたいに。
◇
【金曜日 08:39/広場】
村長が走っていた。
「水桶は北へ!」
「干し肉は濡らすな!」
「怪我人用場所を空けておけ!」
村人たちも動く。
かなり良い。
だが。
余裕がない。
全員が、
“今起きている問題”
へ対応している。
その時。
「村長!」
別の村人。
「東側の火、薪足りません!」
「なっ……」
さらに。
「倉庫裏、水入ってます!」
「子供が一人見当たりません!」
一気だった。
空気が変わる。
皆、一瞬止まる。
何を優先する。
どこへ人を回す。
どれを切る。
その瞬間。
誰も即答できなかった。
◇
【金曜日 08:44/倉庫裏】
ミナが歯を食いしばる。
「先に子供探す!」
「でも火が!」
「倉庫濡れるぞ!」
「じゃあどうすんの!?」
声が強くなる。
焦り。
疲労。
不安。
全部混ざる。
皆、動ける。
でも。
問題が重なると、
“全体”
が見えなくなる。
リリアが静かに言った。
「……ミナ」
「何よ!?」
「落ち着いて」
「無理!」
珍しく。
本気で余裕が無かった。
「回し屋ならどうするの!?」
その言葉。
一瞬、空気が止まる。
皆、少し黙った。
考えてしまった。
今ここに、
回し屋がいたら。
多分。
もう決めている。
何を捨てるか。
何を守るか。
全部。
◇
【金曜日 08:51/見張り台】
ガンツは森を睨んでいた。
嫌な汗が流れる。
ゴブリン。
柵。
火。
倉庫。
避難。
全部同時だった。
戦うだけならいい。
でも今は違う。
守る物が増え過ぎている。
「ガンツ!」
下から声。
「どうします!?」
ガンツは答えられなかった。
いや。
答えはある。
全部は守れない。
だが。
どれを切る。
それを決める責任が重かった。
その時。
森の奥。
黄色い目が。
また増えた。




