現実世界にて
いつも通りです
某日、午後五時半を回ったこの時間。
彗星学園応接室にて二人の男女が中央の対談席で向かい合っていた。
女性は、黒縁の眼鏡に茶髪のポニーテール、彗星学園の制服を身につけ、左腕には黄色い帯がピンと共に飾られていた。
対して男性は、黒髪の短髪に高級感漂うスーツ。まるで重役のような雰囲気を漂わせていた。それを証拠に表情から見るだけでも感じる程だった。
夕日が沈むと共に現れるオレンジ色に煌めく光が二人を照らす。
男は、机の上に置かれていたティーカップに注がれた紅茶を上品に手に取りゆっくりと口の中に注ぎ込む。
「……それにしても今回の事件、よくもまあ彼一人で止めたモノだ」
「ええ、本来であれば治安維持委員会が動かなければならない所でしたけど……」
向かい合っていた女性は、悔しげに俯くように答えた。
唐突だがこの学園には治安維持委員会という物が存在する。その委員会は現実世界と仮想世界の二つ分かれ名前の通り治安維持活動をするのだ。
具体的には現実世界ならば警察との連携で活動、VRゲームならばそのゲームの運営やエンジニアと連携し日々の水守海上研究都市に住む人々を危険から守っている。
「今回この僕がわざわざこの場所に足を運ぶ理由……分かっていますね?」
「はい……私の処分について、ですよね?」
威圧をかけるかのような男は重い言葉を女性に向けた。そのままティーカップを机に置き、組んでいた足を逆に組み直した。
「確かに実際そうなんだが、今回は君、いや君たちに対しての処分は免除されているんだ。因みにこれは決定事項だ」
「えっ、それってどういう?」
「システム・ベアリアのお陰で君たちのチームが動けなかったという情報も出ていてね。まあそういう事もあって考慮されたらしい」
「そうですか」
「まあ今回の件で、プログラム上に大きな不具合が発生し暫くはシステムが不安定になる。完全復旧への期間は今年の12月までとなるらしい」
「……その間まで、仮想現実内の治安維持活動は一時的に休止しろと言う事でしょうか?」
「いいや、違うんだ。運営はすぐにでもサービスを再開するらしい」
「え、な、何でですか!? まだまともにセキュリティーが安定してもいないのに!!」
「『上』の命令さ。流石にこの決定に関してはこちらも異論を説いたが却下された」
「そんな……」
「そこで、だ。今回君に1つ頼みがある」
男は椅子の真横に置かれてあった鞄を取り中から一枚の書類を抜き取りそれを置いた。
「僕の立場上、特にこのゲームのプレイヤーを危険に遭わせるわけには行かないのだよ」
「こ、これは……?」
「この書類に書かれてある情報は全てここだけの機密だ。まずは目を通してくれないか?」
女性は置かれていた書類に手を伸ばし、掴み、じっくり見る。
書類にはCWOの数名のプレイヤーの名前とIDが記されていた。
暫くして、持ってた書類を男に返した。
「とりあえず目を通しましたけど……」
女性は唸るように話した。書類を見終えた彼女の表情は多少の戸惑いが現れていた。
すると男は突然こんなことを口にする。
「これから一ヶ月間、君は個人でイニティアム内で隠密行動をとってもらう」
「隠密行動って……それって所謂、スパイ活動って解釈で良いですか?」
「構わないよ、似たようなものだから」
「具体的にはどんなことを?」
「僕からは一つ、この書類に書かれているプレイヤーを探して接近しデータを取ること。一応任務に支障が起きない限りは自由行動は許そう」
「ですが、私のレベルは既に800台、幾ら初心者装備でも誤魔化す事は出来ないと思うのですが……それに初心者が集まる街イニティアムですよ。あの初心者が集まる街なんて、一瞬でバレますって……」
女性は困ったような顔つきで男に問う。
「そう言うと思ったよ」
男はニヤリと笑い鞄から一本のUSBを取り出しそっと机に置き彼女の方へ押した。
「君にこれを渡しておこう」
そのUSBは見た感じ特に変哲も無い市販であるような見た目だった。
「これは……?」
眉間に皺を寄せ疑問を抱きながらそのUSBを手に取る。
実際に触れ、尾の部分で軽く押すとカチッという音と同時に端子が出てくるノック式のUSBだった。
「今回の君に課した任務において重要になってくる物だ。君のVR機器に接続すれば中身がどういう物か分かるはずだ」
「これが……ですか?」
すると男はふと椅子から立ち上がる。
「まあ、そんなところだ。それでは僕はこれで失礼するよ」
「は、はい……」
最後に帰り際に男は一言、彼女に告げた。
「報告楽しみにしてるよ」
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