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前進

続きです


 ――緊急メンテナンスが終了し一週間程経ったこの日。


 学校が終わり狭い満員電車を抜け、疲れ切った顔で琴吹はカーテンで締め切った薄暗い部屋に入ってきた。

 持ってた鞄を地に投げ捨て上着を脱ぎ杜撰に椅子の背に掛ける。

 途中コンビニで買ったお茶を一気に飲み干し近くの机に置くと大きく息を吐きながらベッドに横たわった。

 すると、ふと琴吹は一週間前アスピスの口から放たれたある言葉を思い出す。

(……『我々堕天使の使徒(デモ=ラドロ)は、活動を再開した』、か……)

 舌打ちを打つと琴吹は枕元に置かれていたVR機器を手に取り頭部に被せ小さな声で『ラルフ』としてログインを宣言する。

 直後見えていた視界が真っ白に変貌し体の感覚が消え徐々に意識が沈んでいった。


 目が覚めるとそこはイニティアムだった。

 あんな悲惨が事件が起こったのにも関わらず町は活気に溢れていた。

(ったく、相変わらずのんきな町だ。ここは……)

 ラルフが見る限り建物には外部からの傷が目立っていたが、倒壊していたはずの建築物はまるで嘘のように綺麗に建て直されていた。

 まだ、建設途中の建物もあったが殆どは、もう人が住めるレベルには直っていた。これこそが人間の力と言うべきなのだろうか一週間前の出来事を知らない人にその事を伝えたら驚愕は不可避だろう。

 ラルフは少しだけ町の風景を見た後、大樹のある中心広場へ向かった。

 実際何かしら目的があるというわけで向かったのでは無く、何となくという気持ちが第一だった。

 舗装されたレンガ道を踵の音を立てながら進んでゆくとそこにはイニティアムの中でも特に人口密度が大きい中央広場があった。

 大樹の根元にはまるでフリーマーケットのように物を売る人や占い師、ギルド勧誘が集まり盛んに人が屯っていた。

(……そういえば、ここから始まったんだったな)

 ラルフがそう思いながら大樹へ向かうように一歩一歩進んでいく。

 その時、付近から必死こいて叫ぶ女性の声が聞こえた。

「募集中で~す!! ギルドメンバー募集中で~す!!!!」

 同時に聞こえた場所から見覚えのある旗をバンバン振り回している姿が確認できた。

(嘘だろ……)

 人混みの中、もう一度強く目を擦りもう一度確認をする。

 聖ローズ女子学園の制服を着た金髪少女、それは――

(レクティア――間違い無い!?)

 ラルフは心を高振らせ小走りで彼女の元へ向かった。

「レ、レクティア!!」

「……え、ラルフ!? 何でここに!!」

 突然のラルフの登場に戸惑いを隠せないレクティア。思わず振っていた旗を離してしまった。

「それはこっちの台詞だよ。それよりお前もう大丈夫なのか? 拠点とかは?」

 本来なら彼女に聞きたいことは山ほどあったがラルフはまず最初に思った事を問いかけた。

 レクティアの正体――原人種(NPC)であるという真実を唯一知るラルフ、まず第一として彼は彼女を心配していたのだ。

「うん、もう私は大丈夫よ。だってほら他のみんなだって――」

 話ながらレクティアは目線を余所に向け、ある所(、、、)に焦点を合わせる。それに続きラルフも彼女が合わせていた目線へ目を向ける。

 そこには、見覚えがある人がレクティアを外し他として四人程――

 ギルドのリー駄ー、スピカ。

 自称ヒーラー、セピア。

 スピカの側近、ユウ。

 そして――

「おい、あの人ってあの時(、、、)の……」

 ラルフが見た人それは、ライムだった。

「そう、今回の件以降しばらくは私達のギルドに加わってくれるらしいの、なんか『お詫び』とかいう名目でね」

 ほう、と頷き、ラルフは彼らがいる場所へ動く。

「ら、ラルフ……さん!?」

 最初に気が付いたのはライムだった。彼の姿を見た瞬間、驚く以上に言葉が先に出てしまっていたのだ。彼女の声は、人混みにもかかわらず目立ち響かせる。

 同時に彼女の声を耳にした他の三人も反射的に此方を向く。直後、――ラルフの姿を目にし彼らは持ってたビラ(前よりはマシになった)を放り捨ててラルフへと寄り添う。

「全くもう、一週間も開けて何があったと心配したのよ!!」

 涙ながらに話しかけたのはリー駄ーのスピカだった。

「ああ、ホント悪い。ずっと治安委員会に事情聴取されてたんだよ」

 ……本当は口止めだったが、スピカはそれを信じてホッとした様子で胸をなで下ろす。

(まあ、そう言いながらも平然と学校には行っていたのだがな……)

「良かった。何があったのかとヒヤヒヤしたわ」

 会話が一段落ついたところで、スピカの前にライムが割って入る。

「あ、あの……っ!!」

 彼女の声はあまりの緊張に強張っていた。肩は大きく力が入っており手先はガタガタに震えていた。

 そして、突然深々と頭を下げる。

「兄と友達を救っていただき本当に……ありがとうございます……」

 すると、ラルフの足下にポツポツと雫がこぼれ落ちていた。

 雫の正体は何となく察しがついた。

「取り返しのつかないことになってしまったことに関しては、私からここでお詫びさせて下さい……私があの時彼らに対して助けていればもっと沢山の命を救えたかもしれないのに……」

 彼女の言葉に二人の間に数秒の沈黙が発生する。

「……頭を上げてくれないか」

 沈黙を破ったのはラルフだった。

「たしかに今回君の犯した罪はそう簡単に償えるような物じゃ無い。実際今回の一件で大量の原人種(NPC)の死者を生み、現実でも心身的外傷(トラウマ)を生んだ人だっている。だけどな、一々そんな後ろ向きじゃ困るんだ」

「え?」

「人は必ず失敗する。この世になんて完璧人間なんか存在しない、人は何度も何度も失敗して初めて成長するんだ。だから、お前は前を見ろ」

「だけど、そんな事をしても私は――」

「拒む気持ちも分からなくも無い。だけどお前は一生そのままその罪を背負って生きる気なのか?」

「っ!?」

「過去を振り返っても何かが帰ってくることは無い。一番お前が知っている事じゃないか? だったら後ろを見るな、ただ前を見れば良い。そうすれば何かが見えてくるはずだ。命を尊さを知った今のお前なら出来るはずだぞ」

「私は……許されるのですか?」

「許されるも何も、それがお前に対しての“罰”だ。前を見て己の人生を突き進み、もしも同じ境遇に遭った人を見たのなら俺みたいに救ってやればいい。お前の意思の強さはここに居る人達よりも遥かに上なのだからな。文句言うヤツは俺がぶっ飛ばしてやるから安心しろ」

「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……」

 ラルフの優しい言葉に感無量の想いでその場に崩れ落ちた。

 両目からは大きな涙が流れ頬を伝って落ちる。何度も袖で涙を拭うも気が付けばもう諦めていた。

 彼女自身、一生全ての人間から恨まれると思い込んでいた。しかし、その思いをラルフは粉々に打ち砕いたのだ。

「お礼なんかいらないよ。ほら、さっさとビラ配りに行けよ。俺とお前以外全員はビラ必死になって配ってるぞ」

「あっ」

 ライムの背後では気が付けば二人を抜きにして勧誘活動を再開していた。

「俺も手伝うぞ、ビラは何処だ?」

「それなら、レクティアさんが」

「そうか」

 言われるとラルフはレクティアのいる所まで移動した。レクティアの両手にはおよそ200枚の紙の束が二つ持っているのが見える。

「手伝うぞレクティア、一応俺も同じギルドなんだからな」

「え、本当!? ありがとうね、じゃあこれ」

 言いながらレクティアは予想通りの200枚の束をラルフに手渡した。

 サイズはA4程でモノクロで印刷されていた。

「うげっ、持ってみるとやるのが面倒くさいな」

「因みに今日はこれ全部配りきるまで終われないんだってよ」

「……は? 今何つった?」

「これやりきるまで帰れないって言ったのよ」

「……灰にして良いかこれ」

「ダメ」

「即答って……」

 まあいいや、と言わんばかりにため息を吐きラルフは活動を開始した。


 ――――

 ――


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