闇の先にある物――
遅くなりました。
――矢の豪雨がピタリと止んだ。
うっ、と唸るような声を出しながらラルフはゆっくりと多少フラつきながらも剣を杖にして立ち上がる。
ラルフの視線の先には、青白い光の矢が地へと大量に突き刺さっている光景が広がっていた。
やがてその矢は、それぞれ光の粒子となって次々消滅してゆく。
大きく一息深呼吸するとラルフは辺りを見渡す。
「勝った……本当に……」
よく見ると彼のすぐ側にはうつ伏せのまま倒れているクトラの姿があった。
背中には矢で刺されたであろう小さな鋭い傷が残っていた。
一応まだ『石』になっていない事からまだHPが0になっていないということが分かる。
クトラが持っていた両手剣は矢の力によって所々貫通され使い物にならないくらいに酷く損傷していた。
(コイツ結局……何がしたかったんだ? さっきから時間が無いだとか……どういうことだ?)
まだ何も知らないラルフがそんな事を考えていると、矢が飛んできた方向から5人の人影走って向かってくるのが見えた。
「ラルフ!!」
聞き覚えのある声が聞こえた。
声の主はレクティアだった。
他にも彼女の後ろにはセピア、スピカ、ユウの3人。それに、あと見慣れない一人の少女の姿が確認できた。
「お前ら……」
ラルフは、この瞬間一度だけ安堵のため息を吐き、右手の木刀を腰に戻す。
するとその直後――、
レクティアは、突然地を大きく蹴り出しラルフのおなかへと飛び込んだ。
「フベッ!? ちょ、お前ッ――急に抱きついて来んなよ!!」
「別にこの時くらい良いじゃないの……だってあなたはこの町を救ってくれた救世主なんだからさ」
彼の姿を見ていたスピカがそんな事を言う。
「……まあ、確かにな」
ラルフはお腹に纏わり付くレクティアの姿を見て優しく笑った。
暫くして、ラルフはある一人の少女に目を向けた。
その少女は艶の入った水色の髪がとても特徴的で、リボン一本のポニーテールで結ばれており何より幼い感じだった。
ラルフはふと彼女を見て脳裏でこんなことを考える。
(あの子は、誰だ? まさかコイツの仲間……?)
メニューウィンドゥを展開し彼女の詳細情報を調べるラルフ。
(プレイヤーネームは『ライム』レベルは584……か。ステータスは平均より割と高い方で装備品を見るに魔法戦闘を主に使用しているって所か)
確認を終えるとラルフは静かにウィンドウを閉じた。
すると、目を向けていた少女がこちらに気付きゆっくりと彼の方へと近づく。
なんだ? 仲間がやられて怒鳴りつけにでも来たのだろうか……
そうラルフは思っていると――
なんと彼女は深々とラルフの目の前で静かに頭を下げた。
「ありがとう……」
え? とラルフは彼女の予想外の一言に一瞬顔を歪ませた。
「兄を止めてくれて……本当にありがとうございます……」
涙ながらに彼女の声は震えていた。顔を下に向ける彼女の目からは透明な雫がポツポツと流れ落ちていた。
「……」
黙り込むラルフ。
暫くすると彼はそっと閉じていた口を開いた。
そして言う。
「……一回顔を上げてくれないか?」
彼女に悪意は感じられなかった。なのでラルフは落ち着いた声で話しかけた。
「……どういう事か詳しく説明して欲しい、まずはそれからだ」
なぜ彼らが神の結晶を欲しがっていたのか。故にそれがこのイニティアムにあるという根拠が何処にあるのかという疑問もあった。
しかしラルフが抱く疑問の中で一番の疑問はやはりそれだった。
「はい……」
ライムは、覚悟を決めた様子で首を縦に振った。
そして、彼女はゆっくりと事の始まりから全てを語り始めた。
アスピスとかいう男から彼女の友人ミネの核石を生きた状態奪われたこと、この未曾有の虐殺が彼女の真意では無いという事、ラルフは静かに全てを黙って聞いていた。
そして――
「――本当かそれは?」
全ての真実を知ったラルフの表情が変わった。
彼のその表情は深刻に近かった。表情以外にもラルフはとてつもなく嫌な予感がするという負の感情が生まれていた。
「『黒い鍵』……お前今、そんな事を言ったよな? それもマジなのか?」
「はい本当です……」
ライムがそう返答すると2人の側から呻き声が聞こえた。
ラルフは音が聞こえた方向に目をやる。
音の主はクトラだった。どうやら核石人種が持つ自己修復が完了したのだろう、グロテスクな傷口は嘘のように消えていた。しかしまだあの時の戦いの疲労により、まだ体がフラフラと不安定になっていた。
憎しみに満ちた顔でラルフを睨み付ける。
「き、貴様ぁ……!! ま、まだ勝負は終わっていないぞ!! 待っていろライム……今お前の――」
声帯を絞り込むような声でクトラはラルフへ向けて叫んだ。
まるで恨みの根源を見ている様な目で……
しかしその直後、ラルフの横にいたライムが小さな声でそっと呟く。
「……もういいよ。お兄ちゃん」
彼女の一言により、一瞬この空間が沈黙に包まれた。
「なっ!?」
クトラにとって思いがけない彼女の一言に彼は呆然とする。
「もう、私は貴方のそんな姿を見たくない……」
「ど、どうしてなんだ!! 俺はただ――」
「もう止めて!!」
彼女の声は強張っていた。
瞬間、クトラの声が詰まる。
「クトラさん。ライムさんの言うとおりです。確かにもうは止めておいた方が良いです。これ以上やると最悪現実の人体にも障害が残る可能性がありますよ」
割って入ってくるようにユウがクトラに話しかけた。
「……くッ!?」
「だってよ。それになぁ……俺からも一つアンタに『言いたい事』があるんだ」
ラルフはそう言いながら未だに抱きつくレクティアを解きフラフラのクトラに近づく。
1メートル程の距離までラルフは差を縮めると、その刹那――
ドゴッ……!! と、鈍い音が響いた。
ラルフが強く拳を握り締め、頬を思いっきり殴った音だ。
クトラはラルフ一撃をモロ受け1回転しその場に倒れ込む。
一撃を与えたラルフの拳には攻撃を与えたにも関わらず蒼い痣が出来ていた。
「話は、彼女から全部聞いたぞ……クトラ」
「!?」
「お前は妹の力になりたくて協力した。違うか?」
「そ、そうだ……」
「じゃあ俺から一つ言わせてもらう『お前は飛んだ大馬鹿野郎』ってな」
「何、だと……!?」
「お前は何も分かっていない」
「黙れ!! 俺は……俺は――」
「じゃあ聞くが、お前はこの時間の中で何人の『核石人種』と『原人種』の命を奪ったと思っているんだ!?」
質問に答えられず、声が詰まるクトラの様子を見てふと呆れるように息を吐くとラルフは更に言葉を重ねてゆく。
「お前は原人種に何も感じたことは無いのか? 一人殺すごとに罪をお前は感じたか? ……いや感じるはずが無いよなぁ、まあこんなに殺しておいて罪もクソも無いよなぁ」
「貴様ぁ……!!」
皮肉に満ちたラルフの言葉にクトラは苛立ちを隠すことが出来なかった。
ラルフは往生際が悪いクトラの様子を見て再び拳を強く握り締め――、
「同じ『人間』の分際で、『人間』を舐めてんじゃねえよ!!」
――またもやクトラを殴った。
「マジでふざけるんじゃねぇ。確かにお前の気持ちには同情するが、いくら俺でもここまではやらない。そんな事はただの偽善者しかやらねぇよ!!」
「俺が偽善者だと……!?」
「ああ、全く以てその通りだよ。なんか文句あんのか?」
「ぐ、ぐぐぐ――ッ!?」
もう我慢の限界だった。
クトラはボロボロの剣を持つと最後の力を振り絞るように大地を蹴り出しラルフへと襲いかかる。
が、その時であった。
クトラの背後から男性の声が聞こえる。
「時間切れですクトラ」
突然の出来事だった。
グジュリ、とクトラの背後から生々しい音が辺りを響かせた。
クトラは口から『血』を吐きゆっくりと後ろを向く。
そこには――
「お、お前……どうして、この期に及んで……裏切るのか!?」
黄色いコートを着し、細剣を腰に付けた男性――ガレットがいた。彼は右手を手刀で強引に背中を抉っていた。
「裏切る? ははっ、一体何を言っているのだか……。私は貴方の知っているガレットではありませんよ?」
「どういう……ことだ?」
「いや、ずっと見ていましたよ。」
「!?」
クトラはガレットの言葉を聞いて驚愕の事実に気付く。
「まさか、入れ替わっていた……とでもいうのか?」
「ええ、その通りですよ。察しが早くて助かります」
「本物は……どうしたんだ?」
「ああ、彼には気の毒ですが……死んでもらいましたよ。貴方を利用するためにね」
衝撃の発言にクトラは戸惑いを隠すことが出来なかった。
「しかし、ずっと見ていましたが……私の期待外れだったようですね」
ガレットはそう言うと、右手で何かを掴みながらゆっくりと手前へと抜くように引いてゆく。
「な……何をする気だ……貴様ぁ……?」
「何って、まあいずれ分かりますよ」
直後――
ブチィ!! と、ゴムを引き裂くかのような嫌な音が聞こえた。
「不合格だ。一生寝てろ……役立たずが」
クトラの背中から大量の血が吹き出る。そのまま彼はまるで魂が抜けたかのように膝から崩れ落ちる。
ガレットの右手には真っ赤に塗られた核石を持っていた。
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