虚無の狭間と『神様』
前回の話を見直すことをオススメします。
そこは、果てしなく地と空しかない世界だった。
まるで空島のように浮かぶ雲が空を漂っていく。
地にはくるぶし程の水が浮かんでいた。
そもそもここは一体何処なのだろうか……
俺は……一体何をしているのだろうか?
肌ではまるで秋のように涼しく、夏のように照りつくような生暖かさが感じられた。
俺は水面に顔を近づけ鏡のように自分の顔を見た。すると同時に俺は一つ違和感を覚えた。
あれ、ちょっと待てよ……これは俺の体なのか?
現実世界にこんな場所があるなんて到底思えない……
それに、俺の体はラルフでもルイスでも無くなぜか琴吹景侍だった。
服装も俺がログイン時に着ていた白いシャツに灰色の短パンであることにも気付いた。
だから俺は疑問を持ってしまった。
しばらくすると、どこからだろうか。まるで学校の校内放送のような、エコーの掛かったかのような不思議な声が聞こえる。
《やあ、景侍君。君にこうして二人で話が出来るなんて嬉しいよ……》
その声は微弱な振動と共に地の水面を揺らしていた。
「誰だ!!」俺は叫ぶ。
《いやいや、誰って。ボクだよ、『神様』だって》
『神』? ……あれ、どこかで聞いたことがある。だけど何故だろうか、思い出しそうなのに思い出せない。
何度も俺は考えていると、俺の目の前に一つの人影が現れた。
『神様』と名乗るその者は一枚の純白の長い布生地を体全体に身に纏っていた。
女性のような肢体にゴムで一本結べそうな長さの髪、顔つきも男性でも女性でもあり得そうな感じで……
あれ…………、
ちょっと待てよ………………、
『女性』のような……………………?
なんで俺さっき『女性のような』っていう揶揄を使ったんだ?
それじゃあ、まるで俺がそいつの正体を知ってるようじゃないか?
それに、ここ……過去に一度見覚えがあるような……?
あれ、もしかして……。って、まさか!?
瞬間、
「ああ、俺もようやく思い出したよ。エダ」
自然にも名前がポロリと口から思い出せなかったはずの名前が出てしまった。
《はは、まだ君はボクのことをそう呼ぶんだね。いい加減そろそろ『神様』とでも呼んでくれないかな?》
軽い笑いで淡々と彼は言葉を返すと、颯爽とした足取りで俺に近づいてきた。
「何を言う、俺はハナからお前のことを『神様』なんっちゅう中二臭い名前で呼ぶ気は無ぇよ。つーかここ何処だよ」
《ああ、そうだったね。景侍君がここに来るのは初めての時以来だったね》
エダがそう言うと、まるで全て知っているかのような言い草で語り始める。
《おさらいとしてもう一度言っておこうか。ここは、『虚無の狭間』。現実世界と仮想世界との境目であり――ボクの一つの世界でもある。他で言うなら所謂中間地点とでも言っておこうか。ほら、君の体だって現実世界での体だろう? つまりそれが証拠さ》
成る程、道理で……
《全く、相変わらずだなぁ~。まあいいや早速だけど本題に入ろうか……》
「本題?」
エダの言葉に俺はピンと来ず眉を縮ませ首を傾かせる。
《そうさ、君とボクとの契約についてだよ。何か意見か質問あるかな?》
「ああ、そりゃもう、数え切れないくらいにありますわ。いい加減懲りたりとか感じたりしないんか? ましてはアカウントを変えたラルフの体でも支配しやがって……いい加減にしろっつーの!?」
呆れたかのような口調で、俺は会話を進める。するとエダは、俺の言動に対して鼻で笑い、
《まさか、ねぇ……君が二つ目のアカウントを作ってしまうなんて正直夢にも思っていなかったよ。さすがは景侍君、いつも君はボクの想像の斜め上にいる》
「……と言いつつも平然と俺のアカウントを乗っ取るお前だろ?」
《まあね。最初はちょっとプログラムがいつものヤツとは大きくかけ離れていたから結構時間は掛かったけど結局はできたからノー問題よ》
「ははっ……」
苦笑いで俺は単純に言葉を返す。するとエダは問いかけるように更に言葉を重ねてゆく。
《……で、どうする? 君から何か言いたいことでもある? なにかあるなら聞いてあげるけど?》
「……」
その時何故か俺は数秒間だけ黙り込んでしまった。
別にその事を口にすることで現れてしまう恐怖とか、そういう訳ではない。
単に言いたい言葉が頭に出てこなかっただけだ。
「……一つ単刀直入に言っても良いか?」
《全然、かまわないよ》
俺はようやく頭の中で言葉が組み上がったのかそのまま流れるように話を進める。
口が動いた。
「もうこれ以上俺の体を乗っ取らないでくれ」
《……君が言いたかったことはそれかい?》
エダは俺の言葉を聞いた途端一瞬言葉が詰まったかのように、言葉が途切れる。
「ああ、それだけだ。異論は?」
《却下だ》
即答だった。俺はすぐさま理由を聞き出す。
「なぜ?」
《分かっているだろう? ボクのこの体は君のハード機器に依存している一種のウィルスでもある。いるべき場所を失ってしまえばボクは自然に消滅してしまう。それに――》
エダがそう言いかけた時だった。
一瞬だった。突如10メートル程はあった俺との距離が1メートル程まで一気に縮め耳元で、シャキン! という鋭利な音が鳴った。
《――ボクを前にして言って良いことと悪いことがあるんじゃ無いのかなぁ?》
俺の言葉が彼の逆鱗に触れたのか、エダの右手には『ルイス』のアカウントで使用されていた武器『結晶刀』が一本握られていた。
「……そうか、」
俺はこの状況でも落ち着いた様子だった。
なぜなら、最初からこうなることくらいはある程度想定していたからだ。
エダの刀は景侍が数センチ動けば当たってしまいそうな位置にあった。故にそれが、俺を抵抗させないようにという意味が込められていたことがよく分かるくらいに、だ。
《ボクと初めて会ったとき、君はボクに向かって何を思ったのか『もう一度一緒にゲームをしたい』って言ったんだよ!! 今更、それを破棄するなんて不可能にきまってるだろうが?》
エダの剣先は首元へと徐々に近づいてくる。しかしそれでも俺は決して動じなかった。
だってさ、――――?
「お前は一体何を言っているんだ?」
俺は静かに首元に迫っていた刃をゆっくりと払った。
《はぁ?》
その言葉を聞いたエダは困惑を交えながら一瞬、顔の表情が歪んだ。
「俺は、あくまで『俺のアカウントを乗っ取るな』としか言ってないぞ?」
《それが何だというんだ!? それはボクをここから出て行けと言われているような物じゃないか!!》
エダの言葉を耳にして俺は顔に出ないように心の中で確信した。
コイツは大きな誤解をしている。……と
「『出て行け』なんて事も言ってはいない訳だが?」
《じゃあ、何だと言うんだ!?》
彼の問いに俺は冷静に問いで返す。
「じゃあ聞こうか……、簡単な問題だ。――俺はこのCWOにて、アカウントをいくつ持ってるでしょうか?」
《それは、2つ……って!? お前、まさか!?》
ようやく俺の考えに気が付いたのかエダは、俺に向かって両目を見開いていたのだった。
その目から感じ取れる物、それは驚愕。実際それ以外としても何も思い当たることが無かった。
「簡単だろう? そう、俺は過去に使用していたアカウント『ルイス』の権限を全てお前に譲渡させる。代わりにお前はもう二度と『ラルフ』の体を乗っ取らない……どうだ? これで文句は無いよな?」
《君……それって本気で言っているのか!? せっかくの最強の力を手に入れたのにどうして、それは過去にボクと一緒に作り上げた結晶だぞ、それをドブに捨てる気なのか!?》
「『最強』の称号なんぞ、もう興味ねぇよ。飽きたわ」
即答だ。
同時に俺はエダに、一つある事を問わせた。
「それに――初めて、『ラルフ』を乗っ取った時、その時レクティアの目には何が映っていたと思う? 因みにレクティアを知らねぇなんて言わせねぇぞ? だって、彼女も既に知っているんだからな」
《…………っ!?》
「ほら、何も言えてねえじゃねぇか。お前に足りてねぇのはそこなんだよ……過去にだって『ルイス』でのアカウントで無双して、お前はなんとも思わなかったのか?」
俺が問うとエダはただただ、黙り込むことしか出来なくなっていた。
「お前も一度は、こっちの世界を知った方が良いんじゃないか?」
《…………》
「最後に俺から、一つ聞こうか……。どうしたら人は不幸になるか、どうしたら人は救われるのか。お前が『神』だというのであればしっかり真面目に考えて見ろよ」
俺がここまで言うと、この空間内で数十秒の沈黙が生まれた。
すると、暫くして……
何故か突如、エダは腹を抱え口から叫びのような笑い声が響き渡った。
「何がおかしい?」
《ははぁ――、いいや、これは『お礼』だよ》
「お礼?」
意外な言葉に、俺は眉間にシワを寄せてしまっていた。
《そうさ今日、君はボクのこれまでの中で遥かに想像を絶する物を要求した。それに続いてボクをこれ程までにさせてくれた……そのお礼さ》
「で、そのお礼の詳細は?」
《受理しよう》
「えっ?」
《君の願い、叶えてあげよう》
エダがそう言うと、すると彼は左手にある物を出現させポイと投げ渡す。
その『物』は、とてつもないほどに光り輝いており直視で見るということは到底出来なかった。
「これは?」
《これは、君へ少しばかりのプレゼントさ……ま、詳しい事はその時になれば分かるよ》
ほう、と少しばかり首を縦に頷くように振ると、俺は持っていた『物』をポケットに仕舞った。
《とりあえず、まずはここで一旦お別れだ。まぁ、この後君はどうなっているかは知らないけれどね……まず言うのであれば『パーソナルアビリティ』を確認することからをおすすめするよ》
「そうか、覚えておくよ。一応な」
俺がそう口にした瞬間エダはふと微笑し、直後右手で指を鳴らした。
《最後に言うけど、今の状況今の君にとってはちょっとヤバいから、そのつもりで――》
刹那一瞬にして、この世界の光源が消えた。
しかし俺はこの状況でもそっと静かに右手の拳をぐっと握り締めていた。
そして言う。
「面白ぇ、やってやるよ。『神様』さんよぉ」
感想意見お待ちしております。
すいません、ストック完全に切れました。
頑張って書き上げます




