逆転の立場
彼らが見た光景は実に絶望に等しかった。
たった一人のLv1核石人種が二本の安物の武器でLv270程の人間がまるでゴミのように容易に蹴散らせてゆくのだ。
二本の武器を持つ少年の周りには、本来であれば絶対に発生しないはずの『痛覚』によってもがき苦しむ『彼ら』の姿があった。中には『核石』までもが転がっていた。
「なっ……!? バカな、どうして……これだけの人数差があるのになぜ勝てない!?」
その場にいた一人の男が傷口を左手で押さえながら忌々しげに叫ぶ。
よく見るとその男の右腕は無かった。右腕はまるで植物の茎を切った後に見える断面図のようになっておりまるで滝のようにドバドバと『セミ=ブラッド』が流れ落ちていた。
今思えば数十分前突如現れた一人の少年。最初は簡単に討てると思い【バレット・フレア】を放ったりしていたが、気が付けば一度もダメージを受けず全てを退けていた。
それはまるで意味が分からなかった。
『「どうして」……か』
少年は静かに男のいる方向に顔を向け呟く。
『面白ェ、なら答えてみろよォ?』
「ッ!?」
『どうしたァ? 「強い」ンだろォ? 答えられるんじゃねぇのか!?』
セミ=ブラッドを浴び、赤く衣類が染まった彼の姿はまるで悪魔のようだった。正直第三者が見てもどっちが悪者なのか分からないくらいだ。
「そ……それはっ――」
『時間切れだァ~~ハイ死ね』
理不尽な程に短い時間でタイムリミットを言い渡すと、少年は体をこちらに向き変えると同時に左手に持っていたナイフを投げ見事に眉間を貫いた。
一瞬の痙攣の直後、男は膝から崩れるかのように倒れその後光の粒子と共に『核石』を遺し消滅した。
◇◆◇
午後10時48分――
『これで、大体は消えたか……』
ラルフは辺りを見渡すと誰も居ないことを確認すると投げたナイフを回収し鞘に戻した。
場所は大樹近くの噴水広場。いつもならばこの時間帯色んな人が屋台などでドンチャン騒ぎしている頃の筈なのだが今は実際そうでは無かった。辺りは火で囲まれ建てられてあった屋台は崩壊し原人種が住んでいただろうと思われる家は何処を見渡しても全て燃えていた。
さてと、という様子で息を吐き前に歩き進めると、
「おい、お前!」
どこからか声が聞こえてきた。
ヒビ割れたレンガの床の上を歩く音と共にラルフの前に一人の大男が姿を見せた。
がっちりとした体に背中には両手剣の分類に相当する大剣が一本鞘に収められていた。
服装は赤の鎧が特徴的だった。容体としては髪はそれほど長くなくパッと見て拳一つで岩を砕けそうな筋力を持っているという例え方が一番丁度良いだろう。
『(コイツ、相当このゲームやりこんでるな……)』
ラルフが着目したのは彼の背中に背負われている大剣だった。
『(ブラッド・レイン……かつて2年前の特別クエストの特別報酬だったヤツか、随分といい武器持ってんじゃねェか……さっきまでの雑魚よりはマシのようだな。それに――)』
ラルフは鞘に収めていた剣を抜き前に構える。
すると大男はラルフを前にして周りの『核石』を見て何かを確信したのか彼を睨み付け、
「テメェがラルフか?」
『ああ、って言う事はアンタがクトラだな』
「ご名答だ。先程までは俺らの仲間達が世話になった」
『ええ、これはこれはァ……よくもまあ面倒なことをしてくれましたねェ、お陰でこの通り楽しく殺らせてもらいましたよォ。で、俺に何の要件で?』
「……フン、単純なことだ。テメェのお陰でウチの仲間は8割消えちまった。だからこれ以上我々の消費を抑えなければならないと判断し今は生きてる全員アジトに戻した。今ここに残っているのは、俺だけだ。ここまでヒントを言ってしまえば後は言う必要は無いだろう?」
クトラは話を聞くだけのラルフに照準を合わせると右手で背中に背負われている大剣を抜きそれを片手だけで支えていた。
「準備は良いな?」
クトラの問いに対してラルフは、
『いつでも――』
そう言いかけた時だった。
ドゴッ!! という騒音と共にクトラは強く、地を蹴り上げ綺麗な放物線を描きながらラルフの頭上へと急接近したのだ。
《「暗黒・上級付与」77=high》
寸前、何も持っていない左手で魔法公式を書き込むクトラ。
直後剣は真っ黒に染まり、そして――
「死ね」
次の瞬間、爆風にも似た強い風が発生した。
普通であれば誰もがその光景を見たらクトラが勝ちを確信する。
しかし……
「ほう、今のを避けるか。随分とやるじゃないか」
『危ねぇ、あと数マイクロ秒遅れていたら刃に触れちまう所だったぜ……』
クトラが剣を振り下ろした場所は酷く地が砕けあまりの勢いだったのか余力で辺りのボロボロの家々を崩壊させていた。
余裕こいてるラルフでも正直今の攻撃はちょっと厳しかったらしい。
『(それにしても……この破壊力、もしもあの時剣で守っていたら……確実にやられていた)』
彼がそう思う理由、それは耐久値だ。
このゲームにおいて全ての武器に対しては必ずしも『耐久値』と言う物が存在する。
耐久値とは所謂防具のHPのような物だ。一般の武器が持つ耐久値は種類やレアリティによって多少差はあるが大体500とされ、簡易モンスターを一体倒すのに必要とされる耐久値は2~3である。そう考えて見れば結構な量であるのだが、木刀や簡易ナイフの場合は初期の耐久値が150なのである。故にあの大剣を剣二本でモロ受け止めていたらほぼ確実に真っ二つにされていただろう。
『チィ――面倒くせェ、飛んだ無理ゲー課せやがって!! って危なッ!?』
ラルフが愚痴を語るかのように口ずさむと、その直後振り上げるように地に突き刺さっていた大剣を振った。
「あの時お前が剣でガードを掛けなかったのは良い判断だな。大抵の人間は盾で守りを掛けるがお前のように一瞬で判断出来るヤツはなかなか居ない」
『ハイハイ、お世辞乙。つーかこの状況で敵さんを称賛って随分と余裕だな』
ラルフはやや遅れつつも男の一振りをバク転で緊急回避すると呆れるかのような口調で話した。
「なぁに、今のは簡単な準備運動みたいな物だ。それにホントにお前がラルフなのか確認したかった事もあるしな」
『成る程、なんともわかりやすい』
ラルフの返答に対してクトラはフッと鼻で笑うと剣先をラルフに向けた。
「今度こそ貴様を討ってやる……これからが本番だ」
『面白ぇ、やれるモンなら殺って見ろやァ!!』
こうして二人はそれぞれの目的のために剣を交わらせるのであった。
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