希望と絶望と千Pecの全財産
ここからですよ!!
10月27日午後8時00分02秒――
洋服屋での買い物を終えた二人は店から出てとりあえず適当にそこらを歩き回っていた。
あの時の解散から大体50分程の時間が経っていた。今だとしてセピアからの集合のメッセージが届いておらず今はそれを来るのに暇をしていた。
今現在のラルフの全財産は千pecだった。ラルフは一枚の紙幣を手に取りじっと見つめていた。
「ラルフ、未だにメッセージ来てないんならこれで適当になんか食べてましょうよ」
「嫌だね。これはあくまでも俺のだっつーの、お前意味分かって言ってるのか?」
初心者核石人種が集まる街イニティアム、その街の夜はお祭りのように騒がしい。故に日が沈む前まで専門の道具や装備を売っていた店達はメインそっちのけでお酒やコロッケなどの物を売っていた。
「ええ~別に良いじゃないの、死ぬモンじゃあるまいしさ」
「良くねえバカ、俺にとってこの金消えると言うことは死活問題に値するんだよ」
「死活問題って、それちょっと言いすぎじゃない? せめてもの他の言い方あるでしょ?」
冗談交じりに話すラルフに対して半笑いで応えるレクティア。すると――
「もう、――えい!!」
痺れを切らしたのか、レクティアは突然ラルフが持っていた紙幣をヒョイと奪い取り、
「あっ、テメェ!? それ俺の金だぞ!!」
「はは~ん、取ったモン勝ちよ。使わなかったアナタが悪いわよ」
「ちぃ――この自己中、女が」
「ふーんだ。何とでも言いなさい!」
レクティアは言うだけ言うとラルフを置いてダッシュでバザーのいろいろな店舗に向かい始めた。
ラルフも咄嗟に彼女を追いかけ始める。
「オイ、テメェ! 俺の金返せ!!」
「嫌よ。これのお金で私はたらふくご飯食べるんだから絶対に返さないわよ!」
なんとも彼女のカワイイ動機である。
気が付けば二人での全財産(1000pec)を賭けたクソくだらない鬼ごっこが展開されていた。
道中には、沢山の人に阻まれ上手く前に進めなかったり、他にも落ちてるゴミを踏んコケたりなどの障害があった。
そして、それが次々と続いて行った結果、案の定――、
完全に見失ってしまった。
息を大きく荒げながらラルフは大きく舌打ちを打つと握り締めていた右手を悔しそうに足の太ももに叩いた。
「畜生ッ!! あのバカ、他人の金完全にパクりやがった!?」
この瞬間、彼の所持金は0に確定した。何せ、つい数時間前までは8千もあったお金が嘘のように跡形も無く消えてしまったのだから。
ここまでなってしまえば、買える物……いや正確には貰える物はたったの水でしか無い。
時々ラルフの腹の虫が鳴るものの、結局の所水で空腹を満たせ切れる訳じゃ無い。
「一体、俺はどうしろと……?」
……ラルフは暗き空を見上げそうポソリと呟いた。
――その時だった。
突如、それと同時に付近である異変が発生した。
――その異変は、一人の女性の悲鳴から始まった。
(ん、何だ? この声は)
断末魔にも似たその叫びは辺りを強く響かせた。次第にその響きは拡散していき、ましては男女共に悲鳴の声が辺りを響かせていた。
声が聞こえたのはおそらくレクティアが走って行った方向で間違いなかった。
ラルフはその声が聞こえた方に移動を始める。やがて塞ぐ人々をかき分けてゆき、その場所に到着する。
そこで彼が目にした物、それは――
「――ッ!?」
突如、ラルフは目を剥き一瞬であったが正常に機能していたはずの心臓が止まった。
それは原人種と思われる体から地面にかけて川のように流れ出る大量の赤い液体だった。
その原人種と思われる者の腹部や首、四肢からには大量の切り傷が見られ、それはあまりの量に人と識別する事すら難しい程だった。
その者は、手で傷を押さえる事無く地へと倒れ、後にもピクリとも動くことは無かった。
「……これって、どういうことだよ……」
あまりの突然の出来事によりそんな言葉しか出て来なかった。
ラルフは咄嗟に辺りを見渡す。するとその死体のすぐ側に腰を抜かした白い制服を着た少女――レクティア姿が見えた。
「お……おい、レクティア……? 本当にどうしたんだよ!?」
ラルフは次の瞬間すぐさまレクティアの名前を呼び側へ駆け寄った。しかしそれに対してレクティアはあまりにショッキングな事だったのか、彼の駆け寄る姿に一切気付く事無く傷だらけの死体を見て恐怖のあまり体を震わせていた。
すると、しばらく経つとようやく自我を取り戻すことが出来たのかラルフの姿に気付く。
「ら、ラルフ……!? アレ……ッ!!」
しかしまだ、冷静さが維持できていなかったのか唇を震えさせながら人差し指を死体の方に指していた。
「分かっている! だから頼むから一度落ち着いてくれ! じゃないと上手く会話が出来ないぞ!」
「分かってる。だけど、無理なのよ! 冷静になんて……出来ない」
会話の中で起こる嵐のように吹き上げる彼女の呼吸は、確かにいくら経っても冷静を取り戻す様子には行かなかそうな様子だった。
「大丈夫だ。安心しろお前は核石人種なんだ。見ているのは原人種、本物の人間じゃ無い! だからそこまで挙動不審になることなんて――――」
必死にラルフが彼女を慰めようとした時だった。
……異変はこれだけで終わる事なんてなかった。
今度は――
突如地震にも似た大地の揺れが発生したのだ。
「ちぃ――今度は何だよ!?」
囲んで彼らの姿を見ていた者も、突然のその揺れに気付いたのか体勢を整え揺れに耐えていく。
……しかし、その直後だった。
「ッ!?」
ラルフは一瞬、何かに気付いた。
彼が気付いたきっかけ……それは、一つの音だった。
正確には魔法発動時に発生するホワ~ンという低いようで高い電子的な音だ。
聞こえた先は辺りのありとあらゆる石でレンガで出来た建物からだった。
次の瞬間、その聞こえた建物から大きな黒色の魔方陣が浮かび上がり、同時にその建物は、崩れ落ち……
姿を変えた。
彼らの目に映った姿の正体は、
「オイオイッ!? 嘘だろ……何で『ロックゴーレム』がここで出てくるんだよ!?」
ロックゴーレムとは大地の怒りによって生まれたと言われる大型モンスターである。特徴としては数多の岩石が一つに集まりそれぞれの意思によって行動する。しかし、この場合魔方陣が発生したという事実がある限り何者かが編成させ他の物に変えさせたという風に考えるのが妥当だろう。
するとしばらくして、ロックゴーレムの側に男らしき一つの人影が現れた。
その男は鎧に様々な装飾を施されていた。頭には赤いフードが取り付けられており正確な顔を見ることが出来なかった。
ラルフは見えたと同時にその男を睨め付け叫んだ。しかし男はそれに動じる事無くそのまま男は落ち着いた様子のままゆっくりと前に進んでゆく。
「……」
辺りの緊張が走る中、ラルフは大きく息を飲んだ。
男はある程度進み、その場に立ち止まると腰に取り付けられていた片手剣を引き抜き剣先を空高くへと突き上げる。それと同時に男は大きく息を吸い、溜めた空気と共に喉の奥から声を挙げた。
「これより、我々『虎の刻印』がこの街を占拠した。目的はCWO内最大級アイテム神の結晶だ!!」
男の言葉を聞いた瞬間その場にいたラルフを含めた全ての者の目を剥きザワつき始める。
『神の結晶』、男は確かにその言葉を口にしていた。確かにこのワールド上には最大3つの神の結晶が存在すると言われている。しかしその内の2つは『ラルフ』の前アカウント『ルイス』が所持していた。おまけにその最後の一つは未だに運営からもそれに関する情報が公開されておらず不明のままなのはずだ。
ラルフはあまりの男の発言に耳を疑った。
男は一度息を吸うと再度言葉を放つ。
「これにより、貴様らは一時的に我々の配下に置かれる事とする。よって逆らう者は我々の手によって粛清する!!」
粛清……? どういうことだ? ラルフにとって、それはまるで意味が分からなかった。
仮に彼らの言っている言葉の意味が『死』と解釈したとしてもそれはこのワールド上の摂理において絶対にあり得ないことだと思っていた。
どうしてラルフがそう思えるかというと、理由はとあるシステムである。
このゲームのシステムの中で核石人種が原人種への殺害防止及びPKの防止として全ての原人種が住む街には必ず、攻撃自体は出来るもののダメージを受けないという特殊なシステムが存在するのである。
「何を言っているだ!! ここにはダメージを受けないシステムが発生してるはずだぞ!!」
ラルフ以外の者も男に向かって反論する。そのシステム自体は他の核石人種も分かっていたことだった。
しかし、男は……笑っていた。まるで我々をゴミとして見ているかのように。
男は息を整えると目を大きく見開き言う。
「システム……か……、フッ、実に笑える。そんなもの我々にとっては無意味に等しい」
「……どういうことだ?」
ラルフは男の発言に眉間にしわを寄せ睨み付けるように言った。
すると男は、腰に掛けてあった80センチほどの刃渡りのサーベルを取り出した。
「フン、仕方ない、理解力が乏しい貴様らにはどうしても『見せしめ』の存在が欲しいようだな」
そのまま、男はサーベルを右手でブンブン振り回しながら更に近づいてくる。
次の瞬間――
突如、大地を踏みしめて爆ぜるように飛び出した。
向かってくる方向は確実にラルフであることが見て取れた。
「ちぃ!?」
それに気付いたラルフは咄嗟の反射神経で腰の木刀を取り出し、相手のサーベルとの差およそ5センチの所で刃を遮った。
しかし、
「遅い――!!」
刹那、男がそう口にした直後その姿を消した。
ラルフは辺りを見回し必死に消えた男の姿を探していく。
が、
「何処を見ている? 後ろだ!」
「なっ!?」
男の声が聞こえると同時にラルフはすぐさま聞こえた方向へと体を向けた。
そこにはあの時の男が腰を低くしながらサーベルを横に開いて持っていた。
――このままいけば確実に切られる。
そう思ったラルフは反射的に持っていた木刀を顔を守るようにして刃先を相手へ向け守りの姿勢に入る。
やがて、刃が接触する。
男は告げた。
「貧弱過ぎる刃だ。……雑魚が」
その瞬間、なんと接触していた男のサーベルの刃がラルフの木刀を徐々に切り込んでゆく。
そして――、切断。
「終わりだ消えろ」
男は交えられていた木刀を突破すると共に刃はラルフの体に切り込みを入れた。
「ぐはぁ――ッ!!」
ラルフは切られた瞬間超絶な痛みが彼を襲った。
それは、今まで生きてきた中で最も大きな痛みだった。
まるで例えるならば、頑丈な厚紙で深く体を裂いたかのような物だ。
ラルフはあまりの痛みに開いた傷口を手で押さえながらその場へと崩れ落ちる。
(何なんだよこれ……痛ぇ――ッ!? ありえねぇ、普通……VRゲームにはあらゆる痛みを緩和させる『アブソーバー・システム』が発生しているはずだぞ……!?)
「言っただろう? 我々にはそんなものは無意味だと……」
心中察しつかれたのか、男は冷酷な鋭い目付きでラルフを見下し、また言う。
「なあ『システム・ベアリア』って知ってるか?」
「……て、テメェ!?」
その単語に聞き覚えがあったのか、ラルフは大きく目を見開いた。
システム・ベアリア、それは3年前、巷で話題となったとあるシステムウィルスである。『障壁』を意味するこのウィルスはゲーム上のあらゆるシステムに介入し一時的に組み替えが出来る。効果持続時間は24時間といわれ理由としては利用した証拠を残さないようにするためとされている。
後にそのウィルスは、ある日の文化の新進を境に対策パッチが開発され以降その影響を受けることは無かった。
しかし今に来てそのウィルスの影響を受けるというのであればそれは、何者かが元のウィルスに細工を加えたと考えせざる終えない。
「組み替えたのは3つ、一つはPKの許可、二つ目はログアウトの禁止及びブラウザー利用禁止。最後には『アブソーバー・システム』を無効させる。以上だ」
「テメェ……それでも人間かよ!?」
「ああ、人間さ。少なくともな」
忌々しく言い放つラルフに対し冷静に応える男を見て、見守っていた他一同は大きく息を飲むと恐怖に怯えたのかすぐさま彼らのいる反対の方向へと走って逃げてゆく。
レクティアは逆として恐怖で足がすくみ上手く動くことが出来なかった。
彼女の姿を見ていたラルフは傷口を押さえながらも必死に叫ぶ。
「レクティア……ッ! 腰抜かしてないで早く……逃げろッ!!」
「い、嫌っ!? 嫌だ、来ないで――まだ私、『石』になんてなりたくない……!!」
しかし、レクティアはあまりの恐怖によりラルフの言葉がかき消されてしまっていた。
「いいから早く逃げろ!! さもないと……本当に『石』になるぞ!!」
再度ラルフが叫ぶと同時にレクティアは彼の言葉に気付いたのか顔をこちらに向けた。
「……で、でも!? ラルフ、このままじゃアナタが!?」
「分かってる……っ、でも、これ以上被害を生ませたくないんだ。お前も見て分かっただろ!?」
「だけど――ッ!!」
「良いから行け!!」
「……――ッ!!」
涙ながらに叫ぶレクティアは彼の言葉を聞いた途端、強く歯を噛み締めると怯んでいた足をようやく動かし立ち上がるとラルフの反対の方向へと走って行った。
「……さあて誰も居なくなったと言うことは、フン、これで確定しましたね」
「確定って、……何する気だよ」
「今更何を言う、『粛清』ですよ『粛清』」
男は一度大きく吸った息を吐くと、
「支配者に逆らったものは『粛清』……。何百年前のヨーロッパでは絶対王政とか言う物が例として挙げられるが、それと同じだ」
「オイ待て……お前、本気か?」
「ああ、もちろん本気だ。……正確には『俺ら』はな」
男はそう言うと持っていた剣を鞘にしまうと同時に、男の背後から大量の人がぞろぞろと向かってきた。
数として言えば50、いや100人くらいだろうかあの男と同じような服装がされておりなんとなく一つのチームであることは分かる。
「今頃、同じような事がこの町の至る所で起きているだろう。まあいい、まずはお前からだ」
「ちぃ!?」
ラルフは目を剥き強く奥歯を噛み締める。
男の背後にいた大量の男達はラルフの姿を見て何もしようとせずただただニヤニヤ笑っているだけであった。
「安心しろ。まずお前を『石』にすれば、後は核石人種及び原人種をこの大人数で殺る……どうだ? 面白そうだろ?」
「ふざけんじゃねぇ!! ……そんな事すれば、どうなるか分かってるんだろうな!?」
咆哮の如く、荒叫ぶラルフ。
事実上、PKと言う行為は基本禁止されている。原人種も同様、『人を殺す』行為をした者は一定期間のアカウント停止が架せられ最悪、無期限の停止もあり得る。
しかし男は顔色を変える事無くただラルフに目をやると、腰の剣を再度抜き――縦に大きく振り上げると同時に、嘲るような目で静かにこう言った。
「知るかよ雑魚が」
直後、激痛と共に意識、視界がゼリー越しに見た世界のように歪みラルフの視界が真っ暗の暗闇へと変貌する――
――、
――――、
……どこからだろうか、
……聞き覚えのある声が自身の脳へと直接響かせる。
『――あ~あ、――』
『――やっぱり、ボクがいないと駄目じゃないか――』
感想・意見お待ちしております




