無理のある買い物
遅くなりました
10月27日午後7時11分58秒。
大樹広場外れにあるバザー街にて。
その内の一つの屋台、被服や防具などを揃えている店の前に彼はいた。
「とりあえず……ここで一旦……解散」
あれから数分前、申請所から出た一同は一応拠点の家賃を支払う為、各それぞれ2000pecずつスピカに渡していた。実際あの拠点の家賃がいくら掛かるのかは知らない。まあ、ラルフ達がお金を払ったとき、そのお金を見る度に目を光らせていたが、一応我々からも私的に使うなと彼女に向けて釘を刺しておいた。
彼らからお金を徴収した後スピカは、4人を置いてどこかへ行っていた。
現在リーダーがいなくなった今、このギルドの指揮はセピアに一時的に変わっていた。
まあ結局の所、リーダー変わっても特に何も変わることはないのだが……。
「まあいいや、そんじゃあ俺はここで別れますよ」
「私は……とりあえず個人で色んな所……見て回る」
早速と言わんばかりにそっぽを向いて颯爽と歩き始めるラルフ。
「それでは私はセピアさんと共に」
「じゃあ、私はラルフに着いていく」
「って、結局解散所かペアになっただけじゃねぇか」
「もういっそこれで良いんじゃない? 逆にそもそもこの服装で外ふらついていたら他人から見たら、ただの痴女にしか見えないわよ」
ラルフがそう突っ込むものの、後のレクティアから言い放たれた一言は正論に過ぎなかった。よく考えてみれば、ラルフは自分以外の3人の服装を見ると、それはまるで『なんということでしょう~』という幻聴が聞こえてしまう程に変貌していた。正直、元の原型が分らなくなっている程に、だ。
同時に周りからの視線という物も強かった。幸い局部は見えていないものの、特に男性核石人種のいかがわしい目は一方的に彼女らへ向けられていた。
ラルフは数秒、首を傾けると納得するような様子で、
「ああ、なるほどな。お前が言いたいことを省略すると、つまり、男女でペア組めばいざという時に安心だということだな?」
「その通り!! よく分かってるわね」
「察しつくわ、そんなモン」
「はあ……じゃあそれでいきましょう……それでは集合は……スピ姉の方からメッセージ来てから……では解散」
「では、行こうかラルフ!」
セピアのペアとラルフのペアで別れると威勢の良いレクティアの掛け声と共にバザー街を歩き進んだ。
気が付けば、レクティアは、そのまま流れるようにラルフの右手の握るように掴んでいた。
不思議と彼女の手からは心地良い暖かさが布越しから伝わってくる。
「っ!?」
何を驚いたのかラルフは、不思議と自然に顔を真っ赤に変化させていた。おまけにギリリッ――と。歯を強く噛み締め、尋常じゃない程に泳ぐ目。その姿はまるで挙動不振で冷静さを失った哀れな人のようだった。
その分、普段からその様な事をされなかったのだろう。おまけにそんな現在進行形で露出度が高い服で体を近づけられると余計に頬を赤くさせてしまう。正直、仕方ないといわざるおえなかった。
寧ろこれは、所謂疑似デートと言った方がふさわしいだろうか。
するとレクティアは、彼の様子を見て表情を伺うかのように顔を寄せてくる。
「どうしたのラルフ? そんな顔真っ赤かにして?」
「いや、……何でも無い」
ラルフは一度彼女の方を一瞥するも一秒も経たないうちにすぐそっぽを向いて応えた。
「?」
レクティアは彼の姿を見て何も分かっていない様子で首を斜めに傾けるのであった。
しばらくして、二人は人混みの道を進んでゆく、するとレクティアは二人の前にぽつんと置かれていたとある一件の店の前で突如足を止めた。
「ラルフ、ラルフ! これ見て!」
彼女の目に留まった店、それは、
「なんだ洋服屋か? っていうかそんな所にあったっけか?」
ここはバザー街、武器や消費アイテム等のあらゆる物を売買する場である。しかしそんな所でも一つだけはそこでは売らない物がある。それは被服物だ。
食べ物や、防具、武器などの物は大抵の物の場合、多少傷や汚れがあっても気にせず買う核石人種のお陰で多く商売に支障が起こらないため、このような場所でも販売されている。しかし、被服の場合はその正反対だった。毎日お祭り騒ぎの町でもあるこのイニティアムは夜になると余計にその盛り上がりは一層を増す。日が沈む前までは、おとなしく回復ポットを売っていた商人も日が沈めばアイテムそっちのけでカレーとかパンと作り始めてしまう。実際そのお陰で、屋台の食べ物の匂いが衣類に染みつき取れなくなってしまい結局商売すら成立しなくなってしまう。
そのため普通であれば洋服屋を経営する場合、店を置く一軒家が必ずと言って良いレベルに必要なのだった。
しかしこの場合は違った。もうすぐ8時になるにも関わらず当たり前のように洋服を販売していたのだ。
「つーか、珍しいなこれ。こんな所に店置くなんて」
「まず見てみましょ! 何があるかを」
心を踊らせるよう目を光らせるレクティアはラルフを引っ張り店の前へと連れて行く。
そのまま彼女は店頭に置いてあった衣服をぱっと手に取る。
「ラルフ見て見て! これ凄くかわいい」
レクティアが手に取った物、それは赤のメインカラーに沢山のジュエリーにフリフリが付いているドレスだった。誰から見ても分かる通り圧倒的に高貴なイメージが強かった。
ラルフは彼女の衣服を持つとそのまま彼は探るように何かを探し始める。
すると何を見つけ、何を思ったのかその直後深刻な顔に変わり彼女に話しかける。
「おい……これ25万pecだぞ……」
ラルフが値札のタグを彼女に見せると、直後石のように固まるレクティア。
25万pec。それは仮にあの時のクエストでペナルティーを発生させずに報酬金を得られるとしてもそれは半分程しか届かない物だ。しかし実際そう考えて見ると簡単には支払えない相当な金額だと言うことが瞬時に分かる。
「へぇっ!? ……あ、あははっ、私は何も見てませ~ん……」
彼の話を聞いて首だけそっぽを向き下手な口笛をピロピロ吹くレクティアである。
彼女の姿を見ていたラルフは持ってた値札を更にレクティアの顔に近づけさせると一層に深刻な顔で話す。
「現実逃避すんな……つーかこれ見てこんなモン買える訳が無いことは十分、分かったな?」
彼がそう言い切るとレクティアはこくりと固まった首を縦に振った。そのままラルフは持っていたドレスをすぐさま畳むとそっと何事も無かったかのように店頭に置く。
するとラルフは無事に戻すことが出来たのかホッと胸をなで下ろし彼女のいる方に体を向けた。
「これで分かっただろ? いくらバザーで鷹を括ったとしても一歩間違えれば大惨事不可避なんだよ」
彼の一言に対してまるで痙攣のように首を縦に振るレクティアであった。
しばらくして気を取り直し、再度改めて他の洋服を見るレクティア。今度は学習したのかまず値札のタグから探し始めた。
――しかし手に取る洋服一つ一つの値段は彼女の想像を遥かに超越していた。
『32万pec』――
『41万pec』――――
『69万pec』――――――
「「…………」」
挙げ句の果てでは『120万pec』というえげつない値札が付いた洋服までもがあった。
彼女が見た中では、殆どがその値打ちで販売されておりその値札を見る度にゾクッと背筋が凍てつかせるように固まる。
「な、何よここの店!? 洋服一着が10万pec以上とか……ッ!?」
庶民の手には絶対に届かないであろう圧倒的値段を突きつけられどうすることも出来なかった。
ラルフは置かれていた洋服一着一着を手に取り値札を見て苦い顔で呟くようにして彼女に言う。
「そもそも、こんな価値が高いやつをこんな手にも届く所に置いてあるのに関しては店側も考えろと思うけどな、こんなのモロ知られたら窃盗被害確定じゃねえか」
実際今彼が持っている洋服は100万pecの値が付いてあった。自身なぜショーケースに入れないのだろうと疑問に感じていた。
もう、ここまで来ると正直ぼったくりと言わざる終えないレベルと考えてもおかしくないだろう。
「もうここじゃ無くて他の所にしようぜ、いくら何でもこれは高すぎる。うん、割とマジでおかしい」
「そ、そりゃあね、……こんな値段突きつけられたら諦めるしか無いよね。ははっ――」
二人は持っていた衣服を綺麗に畳み元あった所に戻した。そのまま二人は店を後にし、しばらく人混みの道を進んでゆくと今度は簡単な洋服や防具を一括を販売してる衣服屋を見つけた。
その店は前みたいにバザーのようにずさんに商品は置かれてなくれっきとした屋内の店であった。玄関扉のすぐ側にはガラスのショーケースが置かれ、他にもインテリアとして絵画等の骨董品が設置されており店内にはレコードのクラッシック音楽が流れなんとなくレトロな雰囲気が心地良かった。
店内に入った途端レクティアは子供のようにはしゃぎ、商品として置かれている品々を一着一着合わせていく。ラルフもまるで保護者のように彼女に付き添いながらも、自身でも未だに『布の服』という装備が恥ずかしかったのだろうかラルフは合いそうな洋服および装備を選ぶのであった。
それから、しばらくして……
「ちょっとちょっと!! ラルフ、これ良いんじゃない?」
気が付けばレクティアは、なぜかラルフの洋服探しに夢中になっていた。ひたすらその場に置いてある洋服を手に取り目をキラキラ輝かせると、そのまま流れるようにラルフに進めてくるのが今の状況であった。
「……だ・か・ら、何でお前はどんだけ俺に女物の服着させたがるんだよ!? これどう見てもどこぞのロリコン共が発狂しそうなデザインじゃねえか!? 黙ってお前の選べよ、この中で一番被害被ってるのはお前なんだからさあ?」
プルプル体を震わせ叫ぶラルフ。必死に自分の中で何かを押さえていたのだろう。しかし今となってはその気持ちは大きく解き放たれ、彼はひたすら叫んでいた。
「ええ~、私自分の似合う服って全く分からないし、いっそのこと他人の服選ぶのが好きなんだけど」
「知るか、ドアホ!? 逆にお前の無駄な乙女心の方向性の方がもっと分かんねぇよ!?」
あれから20分、自分の服そっちのけで女物の服をひたすら見つけては推奨されの繰り返しだった。ここまで時間が掛かるとなると流石の彼でも我慢の限界に達するのは当たり前なのだろう。
「ったく。お前の気持ちはよく分かったから……いいから俺にかまわず早く自分の選べよ。さもないと下手したら連絡来てしまうぞ? そうなってしまったらお前何も買えずに終わって他からの目線が痛くなるぞ、それでもいいのか?」
「フンッ、そんな物、私には何も問題な――」
「痴女認定されるぞ?」
「すいません!! マッハで見つけてきます!!」
彼の脅しの一言の直後、レクティアはラルフを置いて疾風の如く店内の至る所にある衣服を物色し始めた。個々の棚を見て合う物が無ければ次の棚へ、また無ければ次の棚へと、所謂その繰り返しだった。彼女の棚を見る速度、切り替え、その姿はまるでどこぞのアニメショップのグッズを物色するオタクのようだった。
こうして、5分後――
「ラルフ! 見つけたわよ!」
ようやくだろうか、レクティアはとある白い一着の洋服を持ちラルフへ駆け寄る。
「で、結局何を選んだんだよ?」
「じゃじゃーん! これこそ私の戦闘服! 聖ローズ女子学園の制服よ!! やっぱこれよね~」
レクティアが言ったとおり彼女が持っている制服は、聖ローズ女子学園の制服で間違いなかった。なぜラルフがそう判断できるかというと、自身も以前のアカウントでなんとなく見覚えがあったからだ。
聖ローズ女子学園、それはイニティアム内唯一のお嬢様学校としても有名だ。その学園はクラスを色で分けられており彼女が持っている色の他にも赤や黄色、緑などあらゆる色が存在する。
基本的に、中は下着に白のワイシャツ、その上にそれぞれのクラスに沿った色の制服を着る。制服はブレザーでバラをモチーフしており縦のチェックが入っていた。胸ポケットの部分にはそれぞれのクラスの色が入ったバラの形をした鉄製のオブジェが付けられ輝くようにキラキラと咲き誇っていた。
「つーか、これ。どうやって見つけたんだよ? 基本的にこれはその学園の生徒以外の者は購入不可のはずだぞ」
するとレクティアはラルフの発言に対して、何を言ってるんだと言わんばかりに立てた人差し指をチッチッと横に振る。
「何を言ってるのよ。そんなもの、エミーリさんにお願いしてもらって学園の理事長に公共の場での普段の着用を許可させたのよ」
「何、その特権。おかしくね? おまけにエミーリさんも職権乱用の極みじゃね? つーかなんでよりにもよって制服選ぶんだよ。もっと他のやつくらいあっただろう?」
「私、私服よりも圧倒的に制服が似合うのよね。なぜかしら、前になんとなくセピアに私服着た姿を見せたら『やっぱり制服の方が良い……しっくりくる』って言われたのよね」
「知らねえよそんなこと。まあ、OK言われたのなら文句はこれ以上は言わないよ。つーか、いくらするんだよそれ」
レクティアは洋服からタグを探すと、ありのままにそのタグに書かれた数字を読み上げてゆく。
「えーっとぉ、……1万5千pec!?」
一瞬言葉が詰まるレクティアであった。
「思いっきりオーバーしてるじゃねぇかどうすんだよ後の7千pecは?」
するとレクティアはまるでセピアのような弱々しい声でラルフに訪ねる。
「ら、ラルフ? ちょっとお願いが……」
「ふーん、金貸せって言いたいのか?」
う゛っ、と自身で言いたかったことを瞬時に察しられ固まるレクティア。何を気まずかったのか彼女は目線をそらし動揺した様子で話す。
「そ、そうです~。お願いします~」
「ほおー、布の服一枚の俺に対してお前の制服のために7千貸せと……?」
「ホント、マジでお願いします!! 色々考えて見たらホントに恥ずかしいんです!!」
レクティアは熱意の籠もったような声でラルフに言い放った。同時に深々と頭を下げていた。
やがて、それから――10秒ほどの間が出来た時だった。
「………………、ったく仕方ないな」
「えっ?」
「『えっ!?』じゃねえよ。良いよ、出してやるよその金」
「ホントなの!?」
レクティアは下げていた筈の頭をふと上げる。彼女の中では絶対断わるだろうなと推測していたため彼の予想外の一言にとても驚いていたのだ。
「今回のクエストで俺はスライムハームでの影響は何一つ受けてないし、別にこのままでいてもそこまでヤバいわけでもないから良いよ」
するとラルフは右手でメニューウィンドゥを開き一定の操作を終えると直後7枚の紙幣をその場にて実体化させた。
「ほら、使えよ7千pec」
そのまま彼は実体化させたお金を直接レクティアへと手渡す。
「ほ、ホントに良いんだよね……?」
「何、凄く慎重になってるんだよ。何度も言わせんなよ。良いって言ってるじゃねぇか」
「でも……なんかお金、私的に借りちゃって大丈夫かなって」
「かまわねぇ、心配すんなよ。どうせまた、あのリー駄ーが理不尽クエスト申請してお金入るんだからさ。いいから行ってこいよ、俺は先に店出てるから」
彼が言うとレクティアは嬉しそうに頷き上機嫌な様子でレジへと走って行った。
ラルフは彼女の嬉しそうな笑顔を見て、ふと笑うとその店からゆっくりと出て行くのであった。
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