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某所2

遅れてすいませんでした。


 10月27日午後6時43分12秒。

 イニティアム内のとある宿屋の一室にて。

 そこには、ベッドの上でうずくまるようにして座っていた一人の少女――ライムがいた。

 カーテンを閉め切った真っ暗の部屋にその隙間から微かな月光がまるで雲を突き抜ける日光のように差し込み弱い光が部屋を照らす。その姿は、一言で表すとするならその姿はまるで孤独だ。

 あと八十分後……、ライムは手元の時計を見て迫り来る『あの時間』の事をずっと考えていた。

 つい数十時間前にクトラから言われた言葉、それが彼女の行動を遮っていた。


 ――この『計画』を阻害させるような下手な手出しはするな。さもないと更に被害を拡大させる――、と、それはまるで脅迫にも等しい言葉だった。


 彼女のレベルは584、ステータスでもこの島でならほとんど不自由など無い数値だった。所持している装備は杖一本に水色の盾だった。杖には、銀の装飾が施されその先には青い宝珠のような物がはまっていた。盾は片手サイズの物でメインカラーは水色だった。よく見ると何度か磨かれたような痕が所々にあった。そう見てみると随分と長きにわたって手入れを施しているのがよく分かる。

 しかし、それでも彼女は何もする事は出来なかった。

 なぜ出来なかったのか、それはクトラの率いるギルドの圧倒的人数差だった。

 彼女一人に対して彼のギルドの人数差は軽く250人程あったのだ。それ故にクトラとのレベルの差は100以上広がっていた。

 若干ある程度、頑張れば対抗出来るのでないかと思う人もいるのではないだろうか? しかし現実はそう甘くない、なぜそう言い切れるのか。それは数年前、とある上位ランカー核石人種(プレイヤー)が説いたある言葉だった。

 ――核石人種(プレイヤー)との戦いは、どんなに同等の強さを持ったとしても、どんなに自分自身を強化したとしても結局全てはレベルによって勝負がついてしまう。仮に相対する核石人種(プレイヤー)とのレベルの差がたったの1だったとしても結局はレベルの高い核石人種(プレイヤー)の方が勝つ。そしてその摂理は絶対(、、)に覆らない。と

 この言葉はこのワールド上に存在する全ての核石人種(プレイヤー)の心を響かせた。そしてこの言葉はいずれこのワールドの『絶対的法則』として知られるようになったのだ。

 しかし実際、その当時、当然の事ながらこの言葉に反論する者だっていた。しかし、時間が経つに連れてその様な思想を持つ者は消え、気が付けばその『絶対的法則』を遵守する核石人種(プレイヤー)がどんどん増えていったのであった。

 そのようなことからその言葉が存在する以上彼女は、何もする事が出来なかったのだ。

 未だ何か案を思いついたとしても結局はそれを実行に移すことなんて到底出来なかった。

 ならばどうすれば良いのか? 

 あと数分もしてしまえば後に発生してしまうのは彼自身『作戦』と言ってるものの他から見てしまえばそれはただの『虐殺』。結局誰も救われない、ただの大損小利の極みだ。

 どうすればクトラを止める事が出来るのか?

「……」

 瞳から溢れ落ちる雫と共に……。

 ライムはひたすら黙り込む事しか出来なかった。



 同時刻、イニティアムを覆う外側の壁にて。

 そこには黒いフードと白いフードを被った男がそれぞれ二人と、そしてその背後には数十人程の核石人種(プレイヤー)がいた。しかしその者達の腰や背中には、剣や斧などの一般的な接近武器など、目立つような物は一切装備されておらず、おまけに本来であれば胸や肩等の部分に装備されてるはずの鎧を付けていなかった。

 実質そう考えて見ると彼らは魔法主戦型の核石人種(プレイヤー)であることがよく分かる。

 すると内の黒いフードを被った男がメニューウィンドゥを開き現在の時刻を確認し始めた。

「計画実行まであと1時間ほどか……」

「ああ、それにもう各班もそろそろ配置に着いた頃だろうな」

「そういえば作戦の内容は確認したか?」

「まあ、一応な……」

 白いフードを被った男は下を向き黒いフードを被った男の問いに答える。

「まさか我々に言い渡された作戦がイニティアムを覆う壁を壊せなんて、とんだ無茶なご注文をするなぁ、『あの方』は」

「仕方ないよ……我々にとって『あの方』の命令は絶対だ。このギルドにいる以上背くことなぞ出来ない」

 彼らの目の前に(そび)え立つ大きな壁。この壁の役割は主に外敵、モンスターからの侵入防止、そして人間の住むべき世界と自然が住むべき世界との隔離が目的だ。街の入り口にはモンスターの侵入を防止する特殊な結界が貼られておりその結界はそう簡単に突破する事が出来ないとされている。

 すると黒いフードを被った男性はその壁をコンコンとノックするかのように軽く叩くと白いフードを被った男に向けて落ち着いた声の調子で話す。

「壁の厚さは大体2.5メートル、Lv5か6の火炎(フレア)属性の爆発系魔法でどうにかなるだろう」

「そうだな、そんなものか……って、そんな情報どうやって手に入れたんだよ」

「いや、事前に『あの方』から情報を頂いてるんだ。元々計画の綿密性にはここまでやる人だったからな、非常に魔法発動によるマナの調整が楽に出来るんだよ」

「まあ、やると言ったら徹底してやる人だったからな、よく考えてみれば凄いよ」

「ホントそれな、何せこれまで平均Lv250の我々でも『あの方』の指揮の傘下に置かれれば推定Lv500の格上Lvクエストであっても誰一人『石』にさせずに攻略することが出来るからな」

「実に仲間思いなリーダーだよな」

「まあ、これでも『あの方』はLv823の高レベル核石人種(プレイヤー)でもある。だからこそ、これまで培ってきた経験とかで、このような判断が下せるんだろうな」

「あ、ああ、そうなんだろうな…………」

 気が付けばなぜか黒いフードを被った男性は険しい顔をしたまま下に顔を向けていた。

「ん? どうしたんだ? そんな浮かない顔をして」

「ああ……なんか、ちょっとな」

 顔色を伺うようにして彼の調子を尋ねる白いフードの男性。すると黒いフードを被った男性は首を下を向いたまま目を泳がせると彼の中にある疑問を口にした。

「なあ、ちょっと今回の一件に関して、おかしい(、、、、)と思ったことは無いか?」

「はぁ、今更何を言ってるんだよ」

「いいから、まず俺の質問に答えてくれないか?」

「えっ……いやっ、特に何も感じるような事は無かったが……」

 そうか、と黒いフードを被った男性は大きく息を吐くと彼はそのまま会話を進めていく。

「ならば各班にて、基本その指令を全うさせるために他の班との情報提供をしなければならない事くらいは分かっているだろう?」

「お、おう……それくらいは――」

「なら話が早い、じゃあ何か思わないか? 今回のこの作戦について何か違和感を……」

「違和感……か?」

「そうだ。だってこれまで『あの方』の指揮の下で他の班との情報を共通させることが当たり前だったのに、今回の件は周りと共有を禁止すると言われたし、おまけに他との班とも連絡が取れないんだぞ。それってなんだかおかしくないか?」

 黒いフードの男は更にもう一度大きく息を吐くと、またもや言葉を重ねてゆく。

「それに、今まで『あの方』の指令の中でモンスター討伐以外でこんな大がかりな計画って練られていた事ってあったか?」 

 彼に言われ白いフードを被った男は少し目を斜め上に傾ける。

「……そういえば確かにそんな事は無かったな」

「だろ? だから今回の件はおかしいんだよ」

「そうだな。しかし、これ以上言っても何も起こりはしない……今は黙って『あの方』の指示に従うだけ。まずはそれからだ」

「……ああ、そうだな」

 なぜ『あの方』はここまでするのだろうか、それともここまでしなければならないある理由でもあるのだろうか? 

 実際彼ら以外の班の者達には一体どのような指令が出されているのだろうか?

 そもそもなぜ『あの方』は作戦の共有を禁止にしたのだろうか?

 この作戦が今後どのように進められてゆくのかは分からない、しかし必ずや何かしら意味があるのだろう。


 ……こうして、――


 時間は刻一刻と、――――


 進んでゆき――――――


 ……やがて、その時が来る。


「……それでは、任務を実行します」

《《「「炎の精霊よ、――――――」」Ⅰ=Ⅰ/LvⅥ/――――――》》

 フードを被った二人の男は、右の掌を壁に向け小声で『起動言語』を紡ぐ――



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