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このレベルでのクエストはいくら何でも無理がある

遅くなりました。長いです。

「何よこれ、なんか体に悪そうな甘い匂いがプンプンしてるんだけど」

 レクティアは苦い顔をしたまま鼻と口を片手でフェルターのようにして押さえてそんな愚痴を吐いていた。

 ポイズンフォレストに潜入して5分が経つ、奥に行けば行くほど葉によって日光が遮られ、木の幹も焦げ茶色から毒々しい色へと変貌してゆく。地面には真紫に変色した水溜まりが所々にありその水溜まりの中心には原人種(NPC)のものと思われる白骨化した死体があった。

「多分、ここの植物から発せられているだろうな、なにせここは毒に汚染された森だ。栄養摂取手段がこの水溜まりなんだろうな」

「それがどういう関係につながるのよ」

「お前は勉強してたか? ……植物の呼吸だよ。中学の授業で習わなかったのか?」

「私そういうの大っ嫌いなのよ」

「大っ嫌いも、なにも……これ一般常識だぞ!? 普通に考えて嫌でもこれは知らないとヤバいからな」

「正直こんなものやってるよりも、黙って関数やってた方がよっぽどマシよ」

「何で植物の呼吸がわかんないクセして関数分かるんだよ!? それ俺が一番苦労した単元じゃねぇか!?」

 そんな会話を展開していると先頭切って歩いていたスピカが割り込むかのようにして二人のくだらない会話に入ってゆく。

「二人とも~、そんなこと話してないでよ。敵モンスター来たわよ!」

「「へ!?」」 

 スピカの放った掛け声によりラルフとレクティアはセピアのいる方向に揃って向いた。彼らの目線の先には、透明な紫の毒々しい色をした粘液の塊――スライムハームがいた。

 基本、一部例外を除いてスライムには足が無く、ゆっくりと近づいてくる。その姿はまるでナメクジのようだ。

 正直、見てて気持ち悪いとしか言いようが無い。

「やるか……」

 スライムハームは、ラルフ達の姿を確認すると口と思われる大きな穴から白に少々紫混じりした煙を呼吸するかのように吐く。吐いた煙は空中に浮遊し、煙に当たった物質はまるで仮に水蒸気化した硫酸の如く問答無用で一瞬にして溶けてゆく。

 その様子を見ていた一同は、息を飲み片足を一歩下げた。

「始めるわよ!!」

 セピアの掛け声の直後、反射するかのようにそれぞれの武器を手に取り刃先をスライムハームに向けた。

 このギルドにおいて、魔法主戦型の核石人種(プレイヤー)はレクティアとセピアの二人、物理接近主戦型の核石人種(プレイヤー)はスピカとユウ、ラルフの三人での構成となっていた。

 メンバーの配置では、前にいる接近主戦型の三人を盾にするかのようにして魔法主戦型の二人がくっつくようにしていた。

 なぜその様な、配置にするかというと、魔法主戦型の主な防衛手段が【守護結界】の一つくらいしか無いからだ。魔法主戦型は基本MPの温存を最優先として動いている。故に【守護結界】を展開するために必要なMPの量は今の彼らにとって見れば異常に多いのだ。そのため、最低限のMPを温存し次の戦闘に対応するにはこのような配置が必要なのである。

「一応やる前に言っておくけど前みたいな事はしないでよね!?」

 パーティーの指揮を取るスピカは他四人に向け確認程度としてこのように呼びかけた。

 ラルフは大きく一度深呼吸するかのように息を吐くと、スピカの方向へ顔を向け簡単な返事で返した。

 スライムハームの頭上には一つのウィンドウが表示されていた。まるで一枚のガラス板に文字などをプロジェクターによって照射されてたかのようにHPと思われるメーターが表示されていたのだった。

「それにしても、スライム系統のモンスターってある意味やっかいですよね。何せ、普通のモンスターだったら、ダメージを与えたときに必ずいくら与えたのか数値化されて表せられるのにこの場合ではただメーターだけが減っていくのですから、見てて凄く分かりづらいです」

 実際にスライム系統のモンスターは基本的に魔法による攻撃の耐性が強い。なのでほとんどの核石人種(プレイヤー)は物理攻撃で対応する。――ただし、ある魔法(、、)を除いての話しだが。

「仕方ないわよゆーっち、それがこのゲームでの一種の仕様なんだから」

「そうですよね」

「まあ、それじゃあ、とりあえず始めますか」

 ラルフが二人の横でそんなことをつ紡ぐようにしてそんなことを言うと、物理接近主戦型の三人はすぐさま行動を開始する。

 まるで爆ぜるかのように、三人はこの一瞬にて大きく地を蹴り、前へと持った武器を構え突き進んでいく。

「ラルフ! 突然だけど今から後ろに回り込める?」

「無理ですよ! 俺がLv1であるということは知ってますよね!?」

 クソッと言わんばかりに舌打ちをすると、彼女は仕方ないといった様子で再度ラルフに指示を出す。

「じゃあ、単純にアナタは武器で物理攻撃するだけでいいから!」

「はぁ……了解しました。っと」

 (ないがし)ろにするかのように、ラルフはそう答えるとスピカは一度大きくため息をついた。

 同時に後方では、二人が魔法詠唱を実行していた。

《「無の精霊よ……仲間を『支えたまえ』Ⅸ=Ⅰ/LvⅢ/follow+α×reⅢ」》

 指先にマナを集中させ、まるで指先がチョーク、この空間全てが黒板かのように――思い思いの公式(プログラム)を丁寧に書いてゆく。やがて公式(プログラム)を完成させると同時に口先からポソリと呟くかのように『起動言語』を紡いだ。

 直後彼女の、三人の方へ突き出していた右手の掌から一つの魔方陣が展開された。

 色は黒だった。事実上、魔法公式(プログラムルーン)には《=》の前の数字『ファーストナンバー』において『属性』の存在があるのは《Ⅰ》から《Ⅷ》までの8つの属性のみだ。つまり公にて存在する『ファーストナンバー』において『属性の概念』が存在しないのは《Ⅸ》のみとなる。

 セピアが掛けた魔法は『ファーストナンバー』《Ⅸ》の無属性特殊魔法の分類として扱われる支援魔法【ライジングステータス】だ。

 主な詳細は、単純に名前の通り仲間の全ステータス数値を一定時間の間上昇させるという物。しかし実際に上がる数値は唱える魔法のレベルによっては異なるが、仮としてLv1の平均は10~20といわれている。その上、彼女が唱えた【ライジングステータス】はLv3のため大体として50~70程までは全ステータスにおいて跳ね上がる事に関しては間違いは無かった。

 彼らの視線には一枚のメニューウィンドウが表示されていた。もっと正確に言えば通知のメッセージ画面である。

 それはこのゲーム内においての一つの仕様である。自分以外の第三者の手によって、自分に何かしらの状態異常を付与された場合にのみ発動される物であり、故にあの時3人には、『援護』として状態異常を付与された結果としてそれを知らせるメッセージがそれぞれ送られて来たのだった。

 セピアは後方の二人にお礼を言うと、前方の2人に向けて一定の指示を出す。

「ラルフ! ゆーっち! そのまま一斉にたたき切るよ!!」

「オーケ!!」

「わかりました」

 ラルフは武器を持つ手をさらに一層握りしめ、ひたすら前へ前へと足を動かしてゆく。

 やがて3人はスライムハームとの距離を詰めついにはそれぞれの間合いに入ると持った武器を大きく振り上げる。

 木々の葉の間から、差し込む光に刃が当りまるで宝石に光が当ったかのように乱反射する。

 ――すると振り下ろす直前、ラルフはその場から跳躍した。それは振り下ろす際の威力を増幅させる為だ。科学的理論上、同じ質量の物体を高い場所から落とすとき一階から落とすのと2階から落とすのではそれぞれ威力が違う、それと同じだ。

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ――――!!!!」

 威勢の良い掛け声の共に振り上げていた木刀を叩き付けるかのように強く振り下ろした。

 同じくして、他の二人も攻撃を実行する。

 スッ、とまるで風を切るかのように二人の剣がスライムハームの胴体を切り裂いてゆく。その切る感覚はまるで何重にも重なったコンニャクと似ていた。

 「やった!!」と一同、一瞬そう感じてはいた。しかし――、

「ちぃ――!? あのコンニャク野郎、ほとんど効いてねぇ!? これトドメ刺すのも時間の問題だぞ!?」

「いや、それでも一応ある程度はそちらにとっても効いてるみたいよ。そのまま同じようにやってモンスターを圧倒させていけば――――」

 スピカが二人に向けてそう言おうとした時だった。

 ボォッ!! という一瞬の音が耳元を通り過ぎてゆく。

「えっ……!?」

 刹那、背後から一瞬であったが突風が発生した。その突風はまるで爆風のようで、ラルフとスピカの間を風はスルリと抜けてゆく。同時に突風によって二人の髪をそれぞれ反対の方向に激しくたなびかせてゆく。

「……あ、あれ、ここってこんなに突風酷かったっけ?」

「い、いやぁ、ありえないですって。普通の自然界において台風とかじゃ無い限りこんな突風はそう簡単に発生しませんよ普通――――」

 ラルフが鷹を括るようにそう言いかけた時だった。今度はまたもや大きな突風が先程の逆方向から、荒ぶるように数秒の間、体全体の感覚を風によって支配された。

 ゴオ゛ォォ――!! という騒音が彼らの鼓膜を強く扇いでゆく。

 まるで、『圧縮された風のエネルギーが一度にして放出された』かのように――

 次の瞬間、ラルフとスピカは即座に今の現象が魔法だと気づき同時に唱えた者の正体に気付く。

「「これ……絶対に【ウィンドランブル】だよな……?」」

 まるで弾丸のように――、一点に集中させた風を飛ばし、被弾した者を風の力で容赦なく彼方へ吹き飛ばす大風(ストーム)属性の魔法。それが【ウィンドランブル】だ。

 この魔法は、10のスキルポイントを割り振れば誰だって唱えることは可能だ。

 しかし、実際この中で大風(ストーム)の魔法を使用する核石人種(プレイヤー)なぞひとりしかいない。

「ということは、もしかして……」

 二人は互いに目を合わせこくりと頷くように首を縦に振ると、そのまま後方へと視線を向ける。

 二人の視線の先、それはどこぞの学生服を身にまとった一人の少女――レクティアだ。

 彼女は右手を前に突き出した状態で何事も無かったかのような目であった。その後突き出していた右腕を下ろすと今度は両手を腰に当て、まるで自分の優位性をアピールするかのように言葉を次々と口にする。

「――ふふ~ん、私のおかげね。まさかあなたたちがこの攻撃で仕留めれないとは思えられなかったから、チョロっとこちらから援護して正解だったわ」

 なんだろう、聞いててイラッとくるのはラルフだけだろうか。

 原因として言うならば一言多い事と、次々に言葉を重ねてゆく度に出て来るドヤ顔である。

「「……」」

「ん? どうしたのよ二人とも黙ってこっち見て。……はは~ん、まさかこの私の力に嫉妬しちゃったの~?」

「「…………」」

「ね!? そうなんでしょ!?」

「「………………」」

「(ねえ、ちょっと俺コイツマジで殴って良いかな)」

「(奇遇ね、私も丁度そう思っていた所)」

 小声で会話を展開すると、先程まで黙りこくっていた二人が無言のままその少女の元へ向かう。

 二人は気が付けば、剣を腰に仕舞い無表情の顔に青筋を浮かばせ利き手の拳をぎっちりと握りしめていた。

 レクティアはその二人の姿を見て震えるような口調で二人に問いかける。

「……ね、ねえ私ってなんかヤバいことでもやっちゃったの? ……あのー、お二人さん!? その顔ホント不気味で怖いんだけど……ちょっとまず、その右手どうにかしない? 降ろすとかさ!? ね!? ――」

「「こ~のっ、ド阿呆おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」

 二人の叫び声の直後、握り締めていた拳がレクティアの脳天へとぶち当る。

「か~っ!? 痛いじゃないの!? 親父にも殴られたことも無いのに!?」

 殴られた場所を手で押さえつけその場にしゃがみ込み、痛みを堪えるかのように叫ぶレクティア。しかしラルフは、そんな彼女の様子を顧みず血液が沸騰したかのように怒鳴り散らす。

「ハァ!? お前分かってるのか!! ついさっきまで大風(ストーム)魔法を使うなよってリーダー言ってたよな!?」

「へぇっ!? 何それ私知らない、そんな事言ってた?」

「言ってたわ!!」

 その直後、ラルフから二発目の拳がまたもや彼女の脳天を強く叩き付ける。

「フベッ!! 今度は二発目って!? どれだけ私の脳細胞削れば気が済むのよ!!」

「仮想世界なんだから知ったこっちゃねぇよ!! つーか、風属性主義のお前だとはしても、普通に考えてそれにこだわらず大風(ストーム)以外の魔法とか何かしら習得してるだろ!?」

「無理よ!!」

 真顔でキッパリ言い切るレクティアである。

「何でだよ!? 意味分かんねぇよ!?」

「私は、元々回復魔法と大風(ストーム)魔法以外の魔法を詠唱すると手先がぶれて詠唱出来ないのよ!!」

「何のアレルギー反応だよ!? 一体どうやったらこうなるんだよ!? ってか、それってただ単にそれ以外の魔法公式(プログラムルーン)を理解していないだけだろうが!?」

「別に良いじゃ無いの、実際それで倒したんだしノー問題よ。私の今の行動は九割九分九厘、完璧な素晴らしい判断だったじゃないの!?」

「一体何処がだよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 逆だろ!? 先程行動において、お前が素晴らしいと判断したやつは、見事に九割九分九厘、間違ってるんだよ!! お前の脳内思考(フローチャート)の行く先は空振りしか無いのか!? バカなの? バカなんですか!?」

 すると落ち着きを取り戻したであろうスピカが、二人の会話に割り込む。

「二人とも口喧嘩は、ここまでよ」

「し、しかし――――」

「……っていうか、そうしてる場合? この後の『処理』ついては考えてるの?」

「え、処理? 何それ?」

 スピカの言葉を聞いてポカンと思考回路が空回りするレクティアである。

「ちょっと、レクティア忘れちゃったの? つい最近前にやったクエストでスライム系統のモンスターと対峙したときにアナタ、『何となくのノリで大風(ストーム)魔法放っちゃった』じゃん。その時の処理よ。」

「あっ、それね」

「えっ!? ちょっと待って!? 今、聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど……」

 ラルフは一旦止めに入ろうとするが、彼女達はそのままシカトし話を続ける。

「じゃあ、とりあえず、MP切れ覚悟でまず私たちの頭上に【守護結界】を張れば良いね?」

「そうそう、ということでじゃあ――」

 スピカは視線をレクティアに向け合図らしきフリを出す。

「セピア! 悪いけどお願い! 上空に私たちが収まる大きさで【守護結界】を張って!」

「……分かった。らじゃー」

 相変わらずの、力が入ってない声で応えるセピア。彼女は右手親指を立ててこくりと首を縦に振った。

 するとセピアはそのまま上空に両手を挙げ、その内片方の手の人指し指にマナを滲ませ思い思いの魔法公式(プログラムルーン)を書き始める。

《「無の精霊よ__我が天に陣を形成し『守りたまえ』」Ⅸ=Ⅱ/LvⅢ/aπ+block》

 書き切ると同時に口から『起動言語』を紡いだ。

 直後書き記した公式(プログラム)が光り輝き彼女の掌の一点に光が集中する。次の瞬間には一瞬にして彼らを覆うように一枚の魔方陣を形成させていた。

「これで……ひとまず……あとはこちらで適当に調整する」

「やった~、ありがとうセピア。なんとかこれで一安心」

 スピカは結界が展開されたと同時に、安心感による物だろうか、ふと胸をなで下ろしていた。

 形成された魔方陣はやがて透明へと変貌し膜のようにしてドーム状に覆われる。

「まあ、ドロップは出なかったけど、このままの調子で倒して行くわよ。……まあ、レクティアの大風(ストーム)魔法の使用を除いてね」

「とは言ってもスピカさん、その内モンスターのHPを見て適当に攻撃によるダメージを調整しないとなりません。変にこちらがダメージを与え続けてしまうと逆にモンスターが逆上してこっちがになるかもしれませんよ? いっその事時間を掛けてゆっくりやっていきましょうよ」

 するとラルフはユウの方向に体を向き口を開くとポンと右手をユウの肩へと乗せる。

「確かに……ユウ、お前の言ったことは正しい。お前の言うとおりモンスターのHPが半分減ると、変に暴走してまるでマリファナ吸った末期症状のように動く」

「分かっているのならもう少し考えまし――「だけど違うんだよ」

「……どういうことですか?」

 ユウはポカンとしながら首を斜めに傾ける。

「いや、あのさ……一応聞くけど、お前ってこのクエストを申請した張本人だよな?」

「ええ。正確にはリーダーに付き添いで一緒でしたが、それが何か?」

「ならば、聞くけど。このクエストのクリア条件なんだか分かってる?」

「ウッドレイク30個ですよね」

「分かってんなら俺が何言いたいかなんて聞かなくても分かるよね?」

 今まで冷静を保っていたラルフであったが、徐々に声が力んでゆく。

「えっ?」

「えっ、じゃねぇよ!? アンタその発言何を意味してるかわかってんの!?」

「いや、特に何も」

「いやいや分かってるよね!? あれ割とマジの攻撃だったのに今のあの攻撃で1割も減ってねぇんだぞ!? しかもそのドロップアイテムを30個だあ!? ハア、笑わせんな!?そもそもドロップする保証の無えのにおまけにこのレベルで生きて帰れるとでも思ってんのか!? 途方に暮れる所じゃ済まないぞこれ!?」

「いやいや、死ななければ大丈夫ですよ。どんなに時間掛けようがクエストクリアすれば何も問題ないんです」

「だから、お前のその考え方が大丈夫じゃ無いんだよ!! っていうか今の言い方もしかしてだけどなにも計画立てずにこれ受けたのか!? そのまま時間過ぎてここで一晩過ごすなんてごめんだ!!」

 ラルフが頭を掻きむしりながら叫ぶと、流れるように膜のように張られている【守護結界】を見つめる。

 すると――、何かに気付く。

「な、なあ――スピカさん……俺なんとなく嫌な予感がするんですけど……」

「ああ奇遇ね――私も、なんとなく……外れれば良いけどね」

 しかし実際は、二人のその勘が外れることなんて無かった。

 突如、空から小さなある物体が彼らに向けて頭上から降って来たのだ。

「ん? なんか落ちてきましたね、……なんですかこれ?」

 その落ちてきた物体は、見た感じとして透き通った紫色をしていおり、まるでゼリーのようにプルプルとした形となっていた。

 ユウは落ちてきた物体に顔を近づけ、触ろうと手を伸ばす。

「「待ってユウ!! それ触っちゃ駄目!!」」

 直後、ユウのその声に気づいたラルフとスピカはとっさ止めに入る。が……

「え!?」

 ユウの感嘆にも似た声の直後だった。

 今度は、次々とまるで雨のようにパラパラと大量の紫色をしたゼリー状の物体が上空から降り注いできたのだ。

「「「「「うわあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛――――――――――――

!!!!!!??????」」」」」

 地に落ちる度に響く阿比驚嘆の声。同時にその物体は女性陣の衣類にへばりついてゆく。

 ラルフは瞬間で見切りギリギリのラインで風の如く避けきった。

「ちょっと待て、なんで守護結界張ってたのに異物落ちてくるのよ!?」

「違ぇ、それは【守護結界】と『スライムハーム』の酸の威力が桁違いなんだよ!! お陰で粘液が結界を突破しやがったんだよ!!」

「ちょっ、それに何よこの得体の知れない物体は!? 凄いヌメヌメしてるんだけど!?」

 直後その姿をみたラルフは即座に叫ぶ。

「お前ら、早くその粘液を取るんだ!!」

 レクティアは彼の発言に対しても、ピンとしない様子でいた。

「何言ってるの? よく分からないわよ!」

「良いから早く!」

 しかし、次の瞬間であった。

「……って、急に服がっ!? えっ!? 煙上げて……ちょっと待って、と、溶けてる……の!?」

 その瞬間彼女達は彼の言った言葉の意味を改めて理解する。

 なんとスライムハームの粘液によって、徐々に衣服に被せられていた桃色がまるで大陸のように見事に露わになってゆくのだった。

「ホレみろ、言わんこっちゃ無ぇ! 『スライムハーム』は毒と酸を合わせ持つ超危険モンスターなんだぞ!? そう考えて見ればこうなる事なんて想定できるだろうが!?」

「いくら何でも、瞬時にそんな判断なんて出来ないわよ!」

 すると、そんな状況下にて突如側にいたスピカが大声で叫ぶ。

「ちょっと、大変!! ユウが急に鼻血出してぶっ倒れたんだけど!?」

「はぁ、アイツバカなのか!? 『石』にでもなりてぇのかアイツは!!」

「違うのよ!! 彼はどうしても『エロ』に対しての免疫が無くて、何があってもこのような物に遭遇しちゃった場合では、これだけは避けられないのよ!!」

「知るかよ、早く起こせ!? さもないとそのまま違うベクトルでの眠りに入ってしまうぞ!?」

「とは言ってもまずは、この粘液をどうにかしないとどうにもならないわよ!!」

「ちっ、どいつもこいつも――」

 ラルフは一度舌打ちをすると下げていた左腕を咄嗟に彼女らに向け瞬時にある魔法を詠唱する。

《「碧の精霊よ、――――」Ⅱ=Ⅱ/――――》

 右手の剣先でマナを滲ませ思い思いの公式(プログラム)を書き示すラルフ。すると突き出していた彼の左手から青色の魔方陣が展開され同時に丸い水の物体が発生する。

氷水(アイス)属性魔法。【アクア・ボール】――ッ!!」

 直後、形成された丸い水の塊は勢い良く直線に放たれ、形が変形される。その水は粘液を被った彼女達をまるでタオルのように覆い、川の流れる水の如く洗い流した。

「っ、ふうーー何とか、……危なかった」

「危なくねぇよ、もうほとんどグレーゾーンじゃねぇか」

 布に空く穴から桃色の肌をさらしながらも安心するかのように胸をなで下ろすレクティアを見て、口ずさむように突っ込むラルフ。

 すると、そのままラルフは再度あの【守護結界】に目をやる。

 結界の所々には穴が開いており修復される様子も無かった。

「まさか、ここまで酸が強いとは思ってもいなかったな」

「うん……私も正直……」

 手を上空に向け結界を維持していたセピアは、そっと腕を降ろし魔法の効果を解除した。

 刹那、効果を解除すると同時にその膜にヒビが発生しまるでガラスのように四散する。

「ふぅ……疲れた」

 レクティアと同様粘液に触れた影響により結界を発動させていたセピアも桃色が露わになっていた。

「お前……普通に局部見えかけてんのに羞恥心無いのかよ、汗拭うよりも隠す物隠せよ」

 苦い顔しながら頬を赤く染めそんなこと言うとラルフはそっと適当にそっぽを向いた。

 すると……

「ん?」

 我々しか居ないはずなのに、何故か向いた方向の奥から音が聞こえる。

「どうしたのラルフ?」

「いや……なんかあの方向から大勢の足音が聞こえるんだよ」

「足音……?」

 ラルフの一言に対してレクティアが、ん? と首を斜めに傾ける。

 その時だった。

 『その光景』を目にし最初に声を挙げたのはレクティアだった。

「っ!? ちょっと、これっ何!?」

 ラルフも『その光景』を目の当たりにして苦い顔をしながら額に汗を垂らす。

「うぇっ……団体様(、、、)のお出ましだよ……」

 2人が見た光景それは、大量の『ポイズンコブリン』と『ゲロックハーム』だった。

 『ポイズンコブリン』は特に毒等に対する耐性が強く紫の肌が特徴的で基本集団で行動する。

 『ゲロックハーム』は一目見て言うのであるなら、毒々しい色をした蛙と言った方がわかりやすいだろう。それに付け足すのであれば、体内に蓄えられている、『あらゆる物体を溶かす毒息』を持っていた。モロ食らってしまえば正直タダでは済まない程だ。

「オイオイマジかよぉ、タダでさえ俺らはR-18レベルなのにこれ以上、酸でダメージ受けたら別の意味でのR-18になっちまうじゃねぇか!?」

「ラルフ、どうする気なの!?」

「そんな即興でアイディア思いつく訳ねぇだろ!? ラッパーレベルの発想持ってるわけじゃねぇんだよ!!」

 ラルフはつい同じような事が数時間前に起きていたことをなんとなく思い出す。

「『犬』の後に団体様とか普通ねぇだろうが!?」

 そう咆哮したとき、ふとラルフはあることを思いつく。

 ラルフはゲロックハームに目線を注目させた。

「……あれ、ちょっと待てよ?」

 考えるようにして目線を右斜めに向けると、

「何!? 逃げるなら早く言ってよ!? また匙投げるの!?」

 するとラルフは右手の掌を『彼ら』に向けた。

「こいつら多分バカかもしれない」

「はい!? 何言ってるのよ、アナタの方がバカじゃ無いの!?」

(――いや、違う……!)

 彼の勘が正しければ、この状況を打破できるかもしれない。

 過去4年間、このCWO内で培った経験を生かせることが出来るかもしれない。

 実際躊躇う暇すら無いこの状況にて『逃げる』というコマンドも無いのも当たり前だ。

 ならば――、

「――いっそのことやるしか無いだろう!?」

「えっ!?」

 レクティアがふと感嘆の声を漏らした次の瞬間だった。

 ラルフは左手の人差し指を立てると、すぐさま速攻で魔法公式(プログラムルーン)を書き始める。

「CWO内の毒ガスは全て可燃性、つまり『ゲロックハーム』に火炎(フレア)属性の魔法を放ってしまえば――!!」

 そして――、火炎(フレア)魔法【バレット・フレア】が完成する。


 ――刹那、辺りの木々や生物を火で覆い尽くす未曾有の大爆発が発生する。


 結局、残った物なんてある訳が無かった。


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