桜の下で…
『麗奈ちゃん、何聴いてるの?』
『これ?aikoのカブトムシって曲だよ。』
『私の事歌ってるみたいで好きなんだ!』
『私も聴きたいな。』
『ちょっと待って…イヤホン貸してあげる。』
『あっ、ごめん…』
突然流れ出す音楽…でも、
静かな校舎に流れるこの歌は私たちを包むように心地よかった…
『このまま聴かない?』
『うん…そうしよっか…』
『麗奈ちゃん…これ私じゃないかな?』
『えぇ〜絶対私だよ。ほら、こことか、私の方が身長低いし…』
『そこだけでしょ?絶対私だよ。』
『そんな事ないよ。』
『絶対麗奈ちゃんじゃなくて私だよ。』
『ひよりちゃん、しつこいと怒るよ?』
『良いよ。麗奈ちゃん怒っても怖くないもん。』
『ふっ…』
『ふふっ…』
私たちはあの日のように笑い合って…同時に「もう、こんなに笑い合えるのは最後なんだ」と…感じてしまった…
『麗奈ちゃん…もう…お別れだね…』
急に麗奈ちゃんの顔がぼやけて頬に涙が流れた…
『ひよりちゃんは泣き虫だね…』
『だって…』
『私を泣かせるのは麗奈ちゃんだよ…』
『うん…そうかもね…』
『ひよりちゃん、最後に来てほしい場所があるんだ。』
そう言って私はひよりちゃんの手を引いて校庭に連れ出した。
そこは私が精蓮学園に来て初めて、麗奈ちゃんと一緒に生徒会長の仕事で植えた桜の木がある場所だった。
『私たちが植えた桜…少ないけどちゃんと咲いてるね。』
『うん…』
2人の間に長い沈黙が流れた…
『ひよりちゃん…』
『大事な話があるの。』
『何?』
『私…ひよりちゃんとずっと一緒に居たい。』
『うん…』
『ひよりちゃんの隣は私じゃなきゃ嫌だ。』
『でも…もうお別れだよ…』
麗奈ちゃんはポケットから箱を取り出して跪いた…
『ひよりちゃん…』
そう言って麗奈ちゃんは箱を開けて私にそれを差し出した。
『私と…』
『結婚してください…』
『えっ…』
そんなの考えもしなかった…
私は今日で麗奈ちゃんとお別れだと思ってた…
それなのに麗奈ちゃんは一度だってそんな素振り見せないし…
お別れをもう受け入れたんだと思ってた…
でも違った…
麗奈ちゃんは…私たちの将来を想っていたんだ…
ーひよりちゃんへのプロポーズをやっと決心できたのは昨日だった…
3年生になって…
進路を聞かれた時から私は卒業してもずっとひよりちゃんと居られる方法を探していた、
偶然通りかかったのは宝石店だった
そこに書かれた文字に惹かれたのだ…
『あなたと誓う永遠の約束。』
私がずっと探してた答えがここにあった…
次の日には身体が動いていた…
白雪姫先輩に無理言って紹介してもらった塾講師のアルバイト…
私はひよりちゃんに秘密にしながら働いた。
そのせいで生徒会が忙しくなって喧嘩もした。
そしてようやく昨日。私が頑張ってた貯めた52万円を持って宝石店に来た。
でも私には入る勇気がなかった…
『どうしたの?うちに用事?』
『あっ…いや…その…』
中から出てきた店長さんに話しかけられたが、結婚指輪を買いにきたなんて言えずに私は帰ろうとしてしまった。
『待って。とりあえず…中で暖かいもの飲もっか?』
『でも…』
『お話だけ…聴かせて。』
そう言って私を中に入れてくれた。
『ココアと紅茶。どっちにする?』
『いえ…私は…』
『遠慮しないの。』
『紅茶で良いわね?』
『ココアで…お願いします…』
『ふふっ。わかったわ。甘めにしてあげるね。』
『はい、どうぞ。』
『ありがとうございます。』
『あなた…桜台高校生?』
『あっ…いえ…私は精蓮学園の九条麗奈です…』
『精蓮学園?でも制服が…』
『あっ?それ!!』
『これですか?』
私はひよりちゃんにもらったくまのストラップを見せた。
『やっぱり…マリッジベアーね。』
『マリッジベアー?』
『これは精蓮学園で販売されてるものとはちょっと違うのよ。』
『確かに、服とか違いますけど…』
『それよりも…聴かせて。』
『はい…』
『私…好きな人が居て…明日卒業式で…』
『どうやったらその子とずっと一緒に居れるか考えてたんです。』
『そんな時、あの広告を見て、け…結婚…出来たら…って』
『でも、私、女の子だし…』
『女の子同士で結婚なんて…っ…』
『そう考えてたら私…自分の事ばっか考えてて…』
『迷惑…なんじゃないか?って…』
『そう。』
『その子の事…愛しちゃったのね…』
そう言って店長さんはハンカチを渡してくれた。
『うん…。』
『それで、あなたは結婚指輪を選びに来たのね?』
『はい…』
『ご予算はおいくら?』
『52万と…7,000円…あります…』
『お小遣い…いっぱい貯めたのね。』
『違います!!』
『これは私が、バイトして…だからお小遣いは1円も入ってません!!』
『ごめんなさい。私が悪かったわ。』
『じゃあ、彼女にピッタリの指輪を選ばなきゃね。』
『こっちへいらっしゃい。』
そこには眩しいほど輝いた世界があった…
『では、まず値段は気にせず彼女にピッタリの指輪を選びましょう。』
そうは言われたがやっぱり値段が目に入ってしまう…
『九条さん、ちょっとここで待ってて。』
そう言って指輪売り場から離れた場所へ移動した。
そして少し経ってから声をかけられた。
『じゃあ、もう一度選んでみて?』
そしてショーケースを見ると値札が全て隠されていた…
『でもこれじゃ…』
『良いから…さぁ彼女の顔を思い浮かべて?』
そう言われてひよりちゃんの顔を思い浮かべると一つだけ輝いて見える指輪があった。
『これ…』
『やっぱり…私も絶対これだと思ってた…』
『これ…実は私がデザインした一点ものなんだよ。』
『でも、値段が…』
『値段は…144万円ね。』
『あっ…』
『そんなに落ち込まないで。』
『私とあなたのお話はここからが重要よ。』
『取引をしましょう。』
私はその取引に快く応じたのだった…
そしてーー
『麗奈ちゃん…私で良いの?』
『私はひよりちゃんが良い。』
ひよりちゃんの瞳から涙が溢れ出した…
『私…女の子だよ?』
『だから私…先輩と一緒の大学に行くんだよ。』
『白雪姫先輩…女の子同士でも子供を授けられるように研究してるの。今、あと一歩のところまで来てて、私が…私たちが絶対成功させる。』
『女の子同士の結婚なんて変だよ…』
『気持ち悪いって言われちゃう…』
『それでも私はひよりちゃんを愛しちゃったんだもん…仕方ないじゃん!』
『でも…』
『ひよりちゃんは…女の子の私じゃ嫌?』
『私だって、麗奈ちゃんと結婚したいよ!!』
『じゃあ…受け取ってくれる?』
『うん…』
そう言ってひよりちゃんは左薬指を私に近づけた。
私はゆっくり指輪を入れたが…
『ふふっ…ゴソゴソだね。』
『うん…調整してもらえるように言ってあるから…行こっか。』
そうして私たちは宝石店へと向かった…




