初めての喧嘩
三年生になってから夏休みも終わったある日…
私たちは初めて喧嘩をした…
その日は真冬が風邪をひいてしばらく居なかった…
きっかけは些細な事だった…
『ひよりちゃんおはよう。』
『おはよう麗奈ちゃん、また書類出しっぱなしだったよ。』
『ごめん、昨日しまうの忘れてた。』
『ダメだよ、ちゃんとしなきゃ。』
『わかってるよ。私だって忙しいんだもん。』
『ごめん…あっ、これ間違ってるよ。』
『もう、だったらひよりちゃんが直してよ。真冬だったら何も言わずに直してくれるよ。』
『私…真冬さんじゃないもん…』
『何?はっきり言ってよ。』
『麗奈ちゃんがそんなだから真冬さんの負担が減らないんだよ!』
そう言ってひよりちゃんは生徒会室を飛び出した。
『ひよりさん、おはよ…』
すれ違った真冬と言葉を交わす事なくひよりちゃんは走って行ってしまった…
『おはよう麗奈。ひよりさんどうかしたの?
『真冬…ちょっと言い合いになっちゃって…』
『だったら早く謝りなよどうせ私だったらとか言ったんでしょ?』
『それは…』
『誰かと誰かを比べるのは絶対にいけないことだよ。』
『それに…ひよりさんが居ないなら私…今日は帰るからね。』
『何でよ。』
『私、ひよりさんの淹れてくれるコーヒーが好きなの。』
『でも真冬砂糖入れないと…』
『良いから!』
『放課後楽しみにしてるわね。』
それから私はひよりちゃんと何も話せないままお昼休みになってしまった…
『(お昼はいつも一緒に食べてるから話せる。)』
『ひよりちゃん、お昼…ごはん……』
『ひよりちゃんならお弁当持ってどっか行ったよ?』
私の席は窓際の隅でひよりちゃんの席は廊下の隅、ちょうど対角にある…だから私は気づけなかった…
『どこに行ったか知ってる?』
『何も言ってなかったよ。』
『そっか…ありがと。』
それから私はいろんな場所を探した。
結菜ちゃんと琴音ちゃんの教室、生徒会室、保健室、トイレ、中庭、校舎裏…でも、ひよりちゃんはどこにも居なかった…
『(早く見つけないとお昼休み終わっちゃう…)』
もう、人気のない場所は思いつかなかった…
途方に暮れて教室に戻ろうと廊下を歩いていると、屋上へ続く階段から啜り泣く声が聞こえた気がした…
『(屋上は鍵が掛かってるから入れない…でも…)』
『ぐすっ…ふっ…』
そこにはひよりちゃんが居た…
『居た…』
『あっ…麗奈ちゃん…』
『ごめん…私、教室戻るね…』
ひよりちゃんは涙を拭って身支度を始めた…
『ひよりちゃん……行かないで…』
ひよりちゃんの手が止まり、端によってそっぽを向いてしまった…
そして私はひよりちゃんの隣に腰掛けた…
『ごめんね…麗奈ちゃん…』
『何で…』
『私、麗奈ちゃんに酷い事言っちゃって…』
『麗奈ちゃんに嫌われちゃったらと思うと…顔…合わせられなくで…』
『違うよ。ひよりちゃんは悪くない…』
『悪いのは私だよ…』
『あんな事…い…言わなきゃ…よかった…』
『ひよりちゃんが隣に居てくれないと…私…寂しい…』
『寂しいんだよ…』
本音を言えて安心した私はグーと言う音で自分がお腹が空いていた事を思い出した…
『ひよりちゃんはもう食べた?』
『うぅん…私の分のお弁当…持ってないから…』
私は自分の持ってきたお弁当をひよりちゃんに渡した。
『じゃあ、食べよっか!』
『今日は私の好きなやつばっかり作ったんだ。』
そう言ってひよりちゃんの持つお弁当に手を近づけるとひよりちゃんは私の手を握った。
『私のお願い聞いてくれたらこれあげる。』
『えぇ〜』
ひよりちゃんはお弁当を開いて見せてくれた。
『美味しそう!』
『どれが食べたい?』
『卵焼きが良いな。』
『これ?じゃあはい。』
『えっ?』
『食べさせてあげる。』
『それはちょっと恥ずかしいよ…』
『私だって恥ずかしいけど…
今日は2人きりだから…』
『わかった…あ〜ん!!』
『甘くて美味しい。』
『良かった。甘すぎないか心配だったんだ。』
『じゃあ、次は私の番だね。』
私はひよりちゃんに渡したお弁当を開けてお箸で卵焼きを掴んだ。
『えっ?私はいいよ。』
『ダメだよ。そんなのひよりちゃんだけズルい。はい、あ〜ん。』
『えっ…ちょ…ん。』
『どう?』
『…美味しい。
甘いだけじゃなくて何か入ってる?』
『うん。私がオリジナルで作ったんだ。チーズと海苔を入れてあるの。』
そうして私たちは食べさせ合い、昨日よりも距離が縮んだ気がした。
『今朝ね、真冬が言ってたんだけど、いつもひよりちゃんの入れてくれるコーヒーが楽しみなんだって。』
『でもあれインスタントだよ?』
『知ってる。それに真冬、苦いの苦手なのにそんな事言って…』
『砂糖入れた方が良かったんだ…』
『真冬の好みは2本半。残りの半分はいつも私が使うんだ。』
『そうなんだ…じゃあ今日やってみるね。』
放課後…
『はい、真冬さん、』
『あ、あぁ、ありがと。』
『麗奈ちゃんも。』
『ありがと。』
『あれ。これ……甘い…
麗奈に教えてもらったの?』
『うん…どうかな?』
『すごく美味しいよ。』
『良かった。』
『ひよりさん、いつもありがと。』
『私にはこれくらいしかできないから…』
『そんな事ないよ。ひよりちゃんが居てくれるだけで私たちすごく助かってるんだよ。』
『私が居ない間に机も整理してくれてたみたいだし…麗奈も私もこういうのは苦手だからな…』
『ひよりさん?顔赤いけど大丈夫?』
『あっ…えっと…これは…』
『この前見た動画みたいだな…って』
『動画?』
『うん…真冬さんが執事の格好したカッコいいやつ…』
『ちょっとまて、それどこで…麗奈、あれはちゃんと抹消したんだよな。』
『したよ!生徒会のパソコンも放送部のパソコンも職員室のパソコンも演劇部のパソコンだって…』
『麗奈ちゃんの妹メイドさんも可愛かったよ。』
『いや〜!!言わないで〜!!』
『ひよりさん、それどこで…』
『入学のしおりにDVDが入ってたよ?』
『うそ…』
『終わった…』
『だから一年生からやけに写真を撮られたのか…』
『私も…上目遣いでお願いします。って撮られた…』
『えっ?何?何があったの?』
『実はもうすぐある学園祭で私たちは白雪姫先輩に騙されちゃったの。』
『執事喫茶で人手が足りないから急遽入らされたんだけど、練習とか言って撮影されたんだ…』
『私もメイド喫茶で人手が足りないからって…誰にも見せないから私は為に妹バージョンもお願い…って言ってたのに…』
『そうなんだ。楽しそうだね。』
『楽しくない!』
『楽しくないよ!』
『私、中学の時から文化祭とかはずっと図書室だったから…』
『そうなんだ…でも、諦めて…生徒会は多分今年も…』
『楽しみだね。』
私はこの最後の学園祭で後世に受け継がれる悲劇が起こると言うことをこの時はまだ知らなかった…




