滲んだノート
私は朝登校してすぐに真冬に引き留められた…
『麗奈、ちょっと来て…』
『何?』
桜台高校の生徒会室…
そこにはペア授業の申請箱があった…
『どうしたの?』
『雨宮さんの申請用紙が入ってないんだ…』
『それって…』
『麗奈はペア授業を申請されてない…』
『どう言う事?』
『わからない。連中をマークしてくれてた生徒達にも聞いたが特に異変はなかったみたいだし…』
『じゃあ、ひよりちゃんが自分の意思で?』
『そう言う事になる…』
『麗奈…今申請用紙持ってるか?』
『でもこれ使ったら…』
『使わなかったら彼女は今日1人になる…』
ペア授業の申請は桜台高校の生徒が先、申請がなければそこで終了を意味する。
『わかった…』
麗奈は事前に書いておいた申請用紙を置いて真冬に伝えた…
『なに言われても出すって決めてたからね…』
『そうか…』
真冬はそれを受け取ると、すっと箱の中に落とした…
そして教室に戻ると驚いた表情のひよりの隣に麗奈は座った。
『ひよりちゃん、おはよう。』
何もなかったように話しかける麗奈。
『うん』
頷くだけのひより…
そしてホームルームが始まり、その時はきた…
『九条麗奈さん。なぜあなたがここに居るの?』
生徒の注目を浴びる中暗い顔で俯くひよりの隣で悪びれる事なく麗奈は言った。
『あれ?申請用紙出したはずですけど…』
麗奈から顔を背けるように俯くひより…
『昨日確認したところ、雨宮さんの申請用紙はだされていませんでしたよ。』
教室がざわめきだす…
『はい。昨日、ひよりちゃんが申請用紙を自宅に忘れちゃったらしくて、代わりに私の申請用紙を出したはずですけど…』
『そんなの入ってなかったわ。』
『帰りにひよりちゃんからその話を聞いて、急いで出しに戻ったんです。』
『もしかしたら先生が確認した後に入れたのかもしれません。絶対に入れたのでもう一度確認して頂けませんか?』
『わかったわ…ホームルームが終わったら確認するわね。』
『よろしくお願いします』
そして麗奈はその事には触れず昨日と同じようにノートでひよりに話しかける。
【おはよう。昨日は帰ってから何してたの?】
ペン先で気づかせる麗奈…
それでもひよりの反応はなかった…
ノートに落ちる涙…
麗奈はスカートのポケットからハンカチを取り出すとひよりに渡した
【何があったかはお昼に聞かせて?】
【だから】
→【おはよう。昨日は帰ってから何してたの?】
頷くひより。
それから私たちか昨日のように楽しく筆談した。
そうして気づくとノートは終わりが近づいていた…
昼休みになり、ひよりの手を引いて教室を出ようとしたその時、
『麗奈さん、今日最後みたいだしうちらと一緒に食べようよ。』
佐藤さんに呼び止められた…
『ひよりも、あたしたちと一緒でも良いよね。』
頷く事しか出来ないひより…
『あっ、ごめん、お昼は…その…先生に今朝の事で呼ばれてるからそっちで先生と一緒に食べる事になってて…』
『ひよりちゃんも連れてくるように言われてるから…ごめんね。』
そう言って足早に校長室に向かった…
校長室は昨日とは違う静けさが広がっていた…
『さっきは危なかったね。』
『うん…また助けてもらっちゃった…』
『気にしないで。私がひよりちゃんと居たいだけだから。』
『麗奈ちゃん…これ…』
差し出したのは生徒手帳だった…
『ずっと返すタイミングを考えてて…』
『うん。ありがと。』
『ひよりちゃん…?』
『今朝の話なんだけど…何かあった?』
『私…」
『…もう麗奈ちゃんと一緒に居るのが辛い…』
『そっ…か…』
今ならそれがひよりちゃんの優しさだってわかる…
『でも、明日はもっと辛いと思う…』
『明日は私…あいつらにひよりちゃんを嫌ってる姿を見せなきゃいけないの…』
『でも明日は…』
『ひよりちゃんには絶対に申請をだしてもらう。』
『そうしなきゃ全部ダメになっちゃう…』
『私のせいで…』
『そうだよ。ひよりちゃんのせいで計画がダメになっちゃう。』
『だから申請だしてね。』
『違うよ、私のせいて麗奈ちゃんが辛い想いをするって…』
『…言ったでしょ?ひよりちゃんは悪くない。』
『でも…』
『大丈夫。あとちょっとだから。』
『あとちょっとで何もかも上手くいくようにするから!』
『ごめんね…私、やっぱり何も出来なくて…』
『私も頑張るから…一緒に頑張ろ?』
『うん…』
ご飯を食べ、教室に戻ろうと席を立ったその時、麗奈の視線の先には『それ』があった…
『麗奈ちゃん?』
『えっ…あ、ごめん、行こっか。』
そのあとの授業ではノートの余白はすぐに埋まって…余白を見つけては埋めるのが私たちの時間だった…




