側に居るだけで…
朝の静寂を破るように私はチャイムを鳴らした…
『はーい。』
インターホンから声が聞こえた。
『私、精蓮学園の九条麗奈と申します。』
『雨宮ひよりさんのご自宅で間違いないでしょうか。』
『ひよりはうちの娘ですが、今日はお休みって聞いたんだけど…ちょっと待ってて。あの子まだ寝てると思うから起こしてくるわね。』
『あのっ!』
『何かしら?』
『私が起こしに行ってはダメでしょうか?』
『それと…今日はこちらでお勉強させていただきたいのですが…』
『それは構わないけど…ちょっと待ってて。』
しばらくするとドアが開いた。
『さぁ上がって。』
『お邪魔します。』
麗奈は玄関で立ち止まると…母親に尋ねた。
『ひよりさん…昨日何か言ってませんでした?』
『いえ、特に…いつもと変わらなかったわ…それより…あなたはひよりのお友達?今日学校はどうしたの?』
『私は…』
まだ友達だと言えない事が悔しかった…
『実は今日から精蓮学園と桜台高校でペア授業って言う交流授業があって…私のわがままでひよりちゃんを怒らせてしまって…どうしても直接謝りたくて学校を休んでひよりちゃんに会いに来ちゃいました…』
『そうだったの…あの子最近、様子がおかしくて…以前は楽しそうに学校に行ってたのに…だからあなたみたいなお友達が学校に居たら良かったんだけど…友達…居るのかしら…』
麗奈はひよりが精蓮学園の事をどう思っているのがずっと気になっていた…
『ひよりちゃんは…今でも精蓮学園に行きたいって思ってるでしょうか…?』
『あの子…すごく泣いてたわ…精蓮学園は不合格だったみたいだから…』
『そうだったんですね…』
『(ひよりちゃん…嘘ついたんだ…)』
一瞬、暗い顔をした私を気遣うように話を変えてくれた…
『ひよりの部屋。2階の端の部屋だから何かあったら呼んでね。』
『分かりました。ありがとうございます。』
母親と別れた後、麗奈はひよりの部屋へ向かい、ゆっくりと入って行った…
『お邪魔しまーす…』
起こさないように小声で部屋に入ると…まだ眠っているひよりちゃんが居た。
そしてゆっくりとした足取りでひよりちゃんの机へ向かうと、私は静かに課題を始めた…
どれくらい経っただろう…ひよりちゃんの方を見ると、寝返りをうったのか背中を向けていた…
『ひよりちゃん…もしかして…起きてる?』
反応は無かった…
それでも麗奈には起きてるとすぐにわかった…
『ひよりちゃん…私とペアはやっぱり嫌だった?』
麗奈は急に不安になって涙声で呟いていた…
すると急にひよりが麗奈の方を向いて…
『そんなの思うわけ無いです。』
勢いで言ってしまったせいかその後急に声のトーンが暗くなっていくひより
『あっ…えっと、嬉しかったです…でも…私なんかがペアなんて…みんなガッカリしてるから…』
『そんなの…誰が何を言おうと、私にはどうでも良いよ…』
『だって…私がひよりちゃんを選んだんだもん…』
『選んだ?何言ってるの?』
『選んだんだよ?』
ずっと暗い表情のひより…
不安を和らげたくて麗奈は優しい口調で話した…
『くじの時の事覚えてる?』
『はい…』
『あの時ね。引く前から私がひよりちゃんとペアになるように決まってたんだよ。』
『真冬とね…あっ…副会長と私がね、お願いして…
私がひよりちゃんと一緒に授業をしたいって言ったらみんなどうやったら良いか考えてくれてね…』
『何でそこまで…』
『私は…昨日の帰りの事も知ってる…』
『ひよりちゃん…今度は私があなたを守りたいの…』
『それを伝える為に私は今日ここに来たんだよ。』
そしてすぐに優しい口調で
『副会長が一日、私たちの授業をずらしてくれてるから明日は絶対来てね。』
『でも…』
『明日は副会長もペア初日だから変な邪魔も入らないし…私ずっと楽しみにしてたんだよ。』
それでも暗い表情のひより…
『それでも周りが気になるんだったら、ずっと私が話しかけるから…』
『ひよりちゃんは頷いてくれるだけで良いから…』
そして麗奈は自分の生徒手帳をひよりに手渡した…
『これ…私のいちばん大切なものだから、明日絶対に持って来てね。』
生徒手帳に目を落とす。
『生徒会長専用なんだよ!』
『そんなの私…』
麗奈はひよりの言葉を遮った。
『もし…嫌だったら……』
『捨てていいよ。』
麗奈の優しさに気づいたひよりは溢れた涙を拭った…
『それと…多分、これからひよりちゃんに酷い事言わないといけなくなると思う。でも、今の私が本当の私だから…もしそれでも私を信じられなくなったら…えっと…そうだ、これ。借りるね。』
そう言って机に飾ってあった小さなくまのマスコットを手に取り…
『嫌な事言う時はこのくまのぬいぐるみを握ってるから。』
『じゃあ、私は帰るね。』
麗奈は身支度を済ませて部屋を出て行った…
ドアが閉まる前に見えた麗奈はすごく優しい顔をしていた…




