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重心の社  作者: 十五夜
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プロローグ:三角形の徴(しるし)


「……なあ、これ、偶然にしては出来すぎだろ」


捜査一課の若手刑事、佐藤は、タブレットに表示された地図を指でなぞりながら、隣を歩くベテラン刑事に声を漏らした。

京都府南丹市、園部町。

一人の少年が消えてから一週間、捜査状況を整理していた彼の手が止まる。


「小学校、靴、そして昨夜見つかったリュック……。この三点を結んでみろ。綺麗な三角形ができる。それも、ミリ単位でな」


佐藤が引いた線の中心――そこには、うっそうとした森に囲まれた古い神社が、静まり返っていた。


だが、ベテラン刑事は足を止めようともしない。

「そんなもんはネットの考察班にでも任せておけ。我々の仕事は、あの山を洗うことだ」


二人の前を、地元の消防団や町役場の職員たちが通り過ぎていく。

彼らは驚くほど協力的だった。捜索の合間に温かい飲み物を配り、夜を徹して山に入る彼らの姿には、町を思う献身的な精神が溢れているように見えた。


「お疲れ様です、刑事さん。少し休んでいってくださいな」


透き通るような、それでいてどこか冷ややかな響きを持った声がした。

炊き出しのテントで湯気の立つカップを差し出したのは、「摩季(まき)」と名乗る女性だった。町役場の広報を手伝っているという彼女は、清楚な顔立ちに、常に絶やさない穏やかな微笑みをたたえている。


「あ、ありがとうございます。助かります」

「いいえぇ。……大変なことになりましたね、あの子。あんなにいい子が、あんなところで」


彼女はそう言いながら、佐藤の持つタブレットをそっと覗き込んだ。

その視線が、画面上の「三角形」に触れた瞬間、彼女の瞳の奥が、ほんのわずかに、凪いだ水面のように揺れた。

彼女が見ていたのは、行方不明の地点ではない。その三点によって囲い込まれた、地図上の「何もない空白」だった。


「どうかされましたか?」

「いいえ。……ただ、少しだけ懐かしい気がしたものですから。この町の形を、そのまま写し取ったような線でしたので」


摩季はそう言うと、佐藤の顔を真っ直ぐに見つめ、一礼して立ち去った。

その歩き方は、一切の足音を立てず、集落の暗がりに吸い込まれるように滑らかだった。


町ですれ違う人々も、彼女が通り過ぎるときだけは、一瞬だけ動きを止める。

だが、それは畏怖というよりは、指揮者のタクトを待つオーケストラのような、静謐な沈黙だった。


夜、静まり返った小学校の校庭。

街灯が寒々と照らす中、校門の前には、住民が持ち寄ったと思われる数え切れないほどの花や菓子が、山のように積まれている。

それは行方不明者を案じる「祈り」の形をしていながら、どこか、境界線の上に置かれた「供え物」のような、完璧な様式美を保って並べられていた。


その供え物の山を、闇の中からじっと見つめている影があった。

摩季だった。

彼女は、誰にも聞こえないほど小さな声で、何事かを呟いた。

その視線の先では、暗闇に沈む三角形の中心で、神社の影が巨大な獣のように口を開けて待っている。

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