■第74話:拡張①
別の戦場でも。
同じことが起きていた。
■エルディナ魔導王国 前線
「詠唱、完了」
魔術が放たれる。
正確な軌道。
完璧な制御。
当たる。
はずだった。
だが。
ほんのわずか。
ズレた。
爆発は起きる。
だが。
中心を外す。
「……誤差?」
魔術士が眉をひそめる。
あり得ない。
同じ魔術。
同じ距離。
なのに。
再現されない。
■ベルグラード側 防衛線
「来るぞ!」
矢が放たれる。
狙いは正確。
だが。
一瞬。
風がズレた。
矢は逸れる。
「なんだ今の…!」
誰も説明できない。
偶然。
そう片付けるには。
頻度が高すぎた。
■観測(レグナス側)
「……増えてます」
ミレアが静かに言う。
「地点が?」
ヴェルドが問う。
「はい」
一拍。
「同じ現象が複数箇所で」
ガイラスが舌打ちする。
「気持ち悪ぃな」
カイルが地図を見る。
「……これ」
「繋がってませんか?」
線を指でなぞる。
点と点。
それが。
線になる。
ヴェルドの目が細くなる。
「……範囲だな」
一拍。
「広がっている」
ミレアが小さく頷く。
「最初は局地」
「今は複数」
一拍。
「このままなら」
言葉を止める。
だが。
誰もが分かっている。
広がる。
確実に。
■中規模国家
「……報告を繰り返せ」
レオナルト・ヴァルハインは低く言う。
「命中率低下」
「連携誤差増大」
「戦線維持困難」
一拍。
「……ふざけるな」
剣を叩きつける。
「訓練不足ではない」
「指揮の問題でもない」
一拍。
「なら何だ」
誰も答えられない。
だが。
確実に言える。
これは。
“偶然ではない”
■ルナたち
「……広がってる」
ルナが呟く。
「さっきより確実に」
レオンが頷く。
「最初は一個だった」
「今は違う」
エリナが不安そうに言う。
「これ……どこまで行くの?」
一拍。
ルナは答えない。
ただ。
遠くを見る。
「……止まらないよ」
小さく。
「多分」
■レグナス内部
変わらない。
何も。
「報告以上です」
「問題ない」
短いやり取り。
それだけ。
ズレは。
広がる。
まだ小さい。
だが。
確実に。
世界を侵食し始めていた。




