■第73話:ズレ
戦いは。
普通に始まった。
ベルグラード王国。
対。
ヴァルハイン王国。
中規模国家同士の衝突。
理由は単純。
領土。
資源。
どこにでもある戦争だった。
■前線
「前進!」
号令が飛ぶ。
兵が動く。
盾を構え。
剣を握り。
距離を詰める。
ここまでは。
何もおかしくない。
だが。
一歩。
ズレた。
「……?」
兵が眉をひそめる。
踏み込みが浅い。
あと一歩で届くはずの距離。
それが。
届かない。
■後方指揮
「間合いが違う?」
ガイラスが低く呟く。
「いや」
一拍。
「揃ってねぇ」
別の隊も同じだった。
突撃のタイミングが。
微妙にズレる。
誰もミスしていない。
なのに。
噛み合わない。
■交戦
「はっ!」
剣が振られる。
当たるはずだった。
だが。
空を切る。
「なっ……!?」
相手も同じだった。
反撃が遅れる。
ほんの一瞬。
それだけ。
それなのに。
戦いが成立しない。
■観測
「……おかしくないですか」
カイルが小さく言う。
「何がだ」
ガイラスは目を細めたまま返す。
「全員ちゃんと動いてるのに……」
一拍。
「勝負になってない」
その言葉。
静かに落ちる。
ミレアが視線を動かす。
「被害の出方も変です」
「偏ってない」
普通なら。
一方が押す。
だが。
それがない。
均等に。
削れている。
ヴェルドが小さく呟く。
「……広がらない」
一拍。
「抑えられている」
カイルが振り向く。
「誰が……?」
沈黙。
答えは出ない。
だが。
ルナが。
遠くを見たまま。
小さく言った。
「……まだ小さい」
一拍。
「でも」
「これ、広がるよ」
レオンが笑う。
「もう始まってんだろ」
エリナは何も言えない。
ただ。
戦場を見ていた。
■レグナス内部(短カット)
「北部、問題なし」
「流通、正常」
「住民の不安、軽微」
すべて。
“普通”だった。
戦場は。
ズレている。
だが。
まだ小さい。
それは。
始まりだった。




