第56話:戦う理由
理解していた。
全員が。
勝てないと。
バルザーン本陣。
「……状況」
指揮官が問う。
「改善なし」
「誤差拡大」
「修正、追いつかず」
短い報告。
だが。
十分だった。
「……そうか」
小さく頷く。
もう、理解している。
この戦は。
負ける。
一拍。
「撤退は」
副官が言いかける。
「できない」
即答。
「理由は」
一拍。
「見られているからだ」
その言葉。
重い。
他の三大国。
すべて。
この戦を見ている。
「ここで退けば」
「終わる」
国家として。
評価が。
威信が。
すべて。
「……理解しています」
副官が答える。
だが。
それでも。
「勝てない戦です」
一拍。
静寂。
「……ああ」
否定しない。
その上で。
「だからこそ戦う」
静かな声。
「……なぜですか」
一拍。
「国家だからだ」
それがすべてだった。
一方。
レグナス。
「……やめねぇな」
バルガスが笑う。
「ああ」
短く答える。
「やめない」
一拍。
「わかっているからだ」
「……何をだ」
「勝てないことを」
静かな断定。
だから。
「退けない」
合理ではない。
これは。
「意地だ」
バルガスが笑う。
「いいねぇ」
「嫌いじゃねぇ」
だが。
「終わる」
カインは言う。
一拍。
「理由は」
視線は前。
「構造だ」
静かな言葉。
一方。
バルザーン本陣。
「……進軍継続」
命令は繰り返される。
理解している。
負けると。
それでも。
進む。
それが。
国家だった。
そして。
それすら。
利用されている。
戦は。
終わりへ向かう。
止まることなく。
敗北へ向かって。




