第52話:認められない異常
異常は、もはや無視できなかった。
数が違う。
頻度が違う。
「……報告」
無機質な声。
だが。
「補給遅延、七箇所」
「通信障害、五箇所」
「進軍誤差、継続拡大」
“微小”ではない。
明らかに。
「……増えすぎだ」
副官が、初めて言った。
沈黙。
「……把握している」
指揮官の声は、変わらない。
だが。
一拍。
「原因は」
「特定中です」
また、その言葉。
「……遅いな」
小さく呟く。
ここまで来て。
“特定中”。
「……あり得ない」
合理の中では。
だが。
「……あるな」
低く言う。
「……前提か」
その一言。
副官が息を呑む。
「……認めるのですか」
一拍。
長い。
そして。
「……まだだ」
否定。
「確定していない」
合理は。
曖昧を許さない。
「……進軍継続」
命令が下る。
止めない。
止まらない。
一方。
レグナス。
「……気づいたな」
小さく呟く。
「マジかよ」
バルガスが笑う。
「でも止まってねぇぞ」
「ああ」
短く答える。
「止まれない」
一拍。
「認めれば」
「崩れる」
静かな声。
合理は。
正しい前提でしか動けない。
なら。
「前提が壊れていると認めた瞬間」
「すべて止まる」
それは。
敗北だ。
「……だから進むのか」
バルガスが低く言う。
「ああ」
頷く。
「正しい行動を取り続ける」
「それが」
「敗北になる」
その言葉。
静かに落ちた。
一方。
バルザーン本陣。
「……進軍速度、維持」
「補給、再計算中」
すべて、動いている。
正常に。
だが。
「……遅れている」
誰も言わない。
だが。
全員が感じていた。
ズレ。
違和感。
そして。
それは。
消えない。
積み上がる。
止まらない。
合理は。
まだ。
動いている。
だからこそ。
崩壊は、近づいていた。




