第51話:崩壊の兆候
異常は、増えていた。
だが。
「……誤差報告」
無機質な声は変わらない。
バルザーン本陣。
「補給遅延、三箇所」
「射線ズレ、二箇所」
「進軍速度、微低下」
すべて。
“微小”。
「……問題ない」
指揮官が言い切る。
「修正可能範囲だ」
即断。
「補正」
「再計算」
「修正継続」
止まらない。
止めない。
「……増えてます」
副官が、わずかに声を落とす。
「誤差の数が」
一拍。
「把握している」
冷静な返答。
「収束する」
その一言。
一方。
レグナス。
「……増えてるな」
バルガスが呟く。
「ああ」
短く答える。
「まだ小さい」
「だが」
視線は動かない。
「止まらない」
静かな断定。
「……止めねぇのか?」
「止められない」
即答。
「理由は」
一拍。
「合理だからだ」
それがすべて。
一方。
バルザーン本陣。
「……追加報告」
「何だ」
「別方面でも遅延確認」
「……またか」
一拍。
「原因は」
「特定中」
沈黙。
「……遅いな」
わずかに。
声が低くなる。
だが。
「進軍継続」
命令は変わらない。
止める理由がない。
それが合理。
そして。
「……報告」
副官の声。
「何だ」
「通信遅延」
「……範囲は」
「拡大中」
空気が。
わずかに、重くなる。
「……原因は」
「特定中です」
また。
同じ答え。
「……遅い」
小さく呟く。
だが。
「問題ない」
言い切る。
「誤差だ」
一方。
レグナス。
「……来てるな」
バルガスが低く言う。
「ああ」
短く答える。
「感じている」
一拍。
「向こうも」
違和感。
ズレ。
それが。
積み上がる。
「……でも止めねぇ」
バルガスが笑う。
「ああ」
「止めない」
合理は。
正しい。
だから。
「止まれない」
その言葉。
静かに落ちた。
崩壊は。
まだ、始まったばかりだった。




