第48話:誤差の拡大
違和感は、小さかった。
だが。
「……誤差、継続」
無機質な声が響く。
バルザーン本陣。
「修正値、再計算」
「補正ルート更新」
指揮官は動じない。
「問題ない」
即答。
「誤差は想定内だ」
そう。
“誤差”は存在する。
だからこそ、計算はある。
「次の射線」
「調整完了」
命令が下る。
一方。
レグナス側。
「……どうだ」
バルガスが問う。
「ズレている」
短く答える。
「まだ小さいが」
「確実だ」
視線は動かない。
だが。
“流れ”は見えている。
「……それで勝てるのか?」
一拍。
「勝つ必要はない」
「……は?」
「崩れる」
それだけだ。
その瞬間。
再び、轟音。
だが。
「……外れた?」
バルガスが眉をひそめる。
「いや」
首を振る。
「当たっている」
ただし。
「想定と違うだけだ」
一方。
バルザーン本陣。
「……命中率、低下」
「誤差拡大中」
「補正は」
「追いついていません」
沈黙。
「……なぜだ」
指揮官の声が、わずかに低くなる。
「原因は?」
「不明」
あり得ない。
原因が不明など。
だが。
「……違うな」
小さく呟く。
「ある」
一つだけ。
「前提だ」
空気が止まる。
「……前提?」
「ああ」
静かに言う。
「すべての計算は」
「正しい前提の上に成り立つ」
「なら」
一拍。
「それが狂っていれば」
答えは一つ。
「全部狂う」
一方。
レグナス。
「……広がってるな」
バルガスが呟く。
「ああ」
短く答える。
「止まらない」
誤差は、小さい。
だが。
連鎖する。
「……これが狙いか」
「そうだ」
一つのズレ。
それを積み重ねる。
「合理は強い」
「だが」
「止まれない」
それが、弱点だ。
「……怖ぇな」
バルガスが笑う。
「自分で止められないのか」
「ああ」
静かに頷く。
「だから」
「崩れる」
戦は。
まだ続いている。
だが。
確実に。
終わりへ向かっていた。




