第47話:合理の罠
戦場は、静かだった。
だが。
次の瞬間。
「第二射、準備完了」
無機質な声。
「来るぞ!」
バルガスが叫ぶ。
今度は違う。
密度が上がっている。
範囲も広い。
「……本気だな」
小さく呟く。
「どうする!」
一拍。
「動く」
「……おい!?」
バルガスが目を見開く。
「お前が動くって言うのか!?」
「ああ」
静かに答える。
「下がる」
その瞬間。
レグナス軍が動く。
一直線に後退。
そして。
轟音。
爆発。
先ほどまでいた場所が、消し飛ぶ。
「……危なっ」
バルガスが舌打ちする。
「完全に読まれてるぞ」
「ああ」
短く返す。
それでいい。
一方。
バルザーン本陣。
「命中率、低下」
「対象、回避行動を選択」
報告。
「想定内だ」
指揮官が答える。
「回避させることが目的」
「……誘導ですか」
「ああ」
地図に指を走らせる。
「ここに追い込む」
狭い地形。
逃げ場がない。
「合理的だ」
一方。
レグナス側。
「……逃げてるだけだぞ」
バルガスが言う。
「このままじゃ囲まれる」
「ああ」
短く答える。
「その通りだ」
「なら――」
「いい」
遮る。
「それでいい」
静かな声。
「……は?」
「追い込ませる」
その言葉。
「お前、何言ってんだ」
バルガスが呆れる。
「死ぬぞ?」
「死なない」
即答。
「理由は」
一拍。
「計算しているからだ」
静かな言葉。
「……は?」
「相手が」
短く続ける。
「完璧に」
その瞬間。
地形が変わる。
狭い谷。
逃げ場なし。
「……詰んだな」
バルガスが呟く。
「そうだな」
だが。
「詰んでいる」
「のは」
一拍。
「向こうだ」
静かな断定。
その瞬間。
「報告!」
バルザーン本陣。
「地形データに誤差!」
「……何だと?」
「更新されていない領域あり!」
空気が止まる。
「……なぜだ」
一拍。
そして。
「……そうか」
理解する。
「最初からか」
一方。
レグナス。
「……前提だ」
小さく呟く。
「何?」
バルガスが問う。
「相手は正しい」
「だが」
「前提が違う」
それが、すべてだった。
合理は強い。
だが。
「前提が狂えば」
「崩れる」
静かな声。
戦は。
動き始めた。
だが。
すでに。
ずれていた。




