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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第440話:抜かれない剣

アルカディア帝国。


ジョーカー騎士団本部。


巨大な訓練場では、朝から重騎士たちが剣を振るっていた。


鋼がぶつかる音。


地面を揺らす足音。


大陸最強と恐れられる騎士団。


その力に疑う者はいない。


訓練を終えた若い騎士が隊長へ尋ねた。


「いつになれば出撃ですか。」


隊長は汗を拭きながら答える。


「命令待ちだ。」


「レグナスでしょうか。」


少しだけ沈黙が流れる。


「分からん。」


若い騎士は空を見上げた。


入団して五年。


実戦は一度もない。


それでも誰一人、不満を口にはしなかった。


強い力ほど、抜かれない方が良い。


それを歴戦の騎士ほど知っていた。


本部の窓から外を見る老文官が小さく呟く。


「今日も動かなかったか。」


隣の役人が頷く。


「ええ。」


「動かなくて済んだ。」


二人はそれ以上話さない。


遠く離れたレグナスでは、


橋が直り、


港が動き、


商人が茶を飲んでいる。


その当たり前が続く限り、


ジョーカー騎士団は今日も剣を鞘へ収めたままだった。


訓練場では夕日が剣を赤く染めている。


だが、その刃は誰一人傷付けることなく、一日を終えた。


それが今の世界の均衡だった。


(次話へ)


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