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第435話:巡回路の石
朝露の残る山道を、一人の地方巡回員が歩いていた。
名はドナル。
王都から遠く離れたこの土地で、道や橋、水路の状態を確かめるのが仕事だった。
腰には古びた革の手帳。
剣ではなく、木製の物差しを携えている。
山道の途中で、老人が声を掛けた。
「役人さん、その石が少し浮いてるぞ。」
ドナルは足を止め、しゃがみ込んだ。
確かに石畳の一枚が僅かに傾いている。
通るだけなら問題はない。
荷馬車も走れる。
だが、雨が続けば三年後には崩れる。
ドナルは石の位置を測り、手帳へ静かに記した。
『西街道第三十九区画 石一枚交換』
それだけだった。
昼過ぎ。
村役場へ戻ると、修繕依頼書を一枚だけ提出する。
村長は笑った。
「一本だけか?」
「一本で十分です。」
「他は?」
「まだ十年持ちます。」
村長は印を押した。
翌週。
職人が石を一枚だけ取り替えた。
旅人は誰も気付かない。
商人も気付かない。
百五十年続く街道は、こうした一枚の積み重ねで守られてきた。
夕暮れ。
ドナルは山道を振り返る。
風が吹く。
荷馬車が静かに通り過ぎる。
それだけで十分だった。
今日も道は、人を止めることなく続いている。
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