第43話:誤算
帝国本陣。
空気が、変わっていた。
「……おかしい」
副官が呟く。
報告書を握る手が、わずかに震える。
「内部崩壊は?」
低い声。
「……止まりました」
一瞬の沈黙。
「原因は」
「不明です」
あり得ない。
計画は完璧だった。
人の不信。
恐怖。
責任。
すべて突いた。
それでも。
「……止まった?」
男が、小さく呟く。
「はい」
「むしろ」
一拍。
「安定しています」
空気が凍る。
「……あり得ない」
論理が崩れる。
だが。
「……いや」
男は目を細める。
「ある」
可能性は一つ。
「中央が機能していない」
副官が息を呑む。
「……まさか」
「ああ」
静かに頷く。
「捨てたか」
中央の制御。
それを。
「……狂っている」
副官が呟く。
「普通なら崩壊します」
「普通ならな」
男は、静かに笑う。
「だが」
「奴は違う」
理解する。
「……構造か」
「そうだ」
短く答える。
「崩れる前提で組んでいる」
「だから崩れない」
沈黙。
「……化けたな」
副官が呟く。
「ああ」
男も頷く。
「完成した」
その言葉。
「宰相として」
空気が重くなる。
「……どうしますか」
副官が問う。
一拍。
「次に移る」
迷いはない。
「第二段階は失敗だ」
「なら」
「正面から崩す」
空気が張り詰める。
「……勝てますか」
副官の問い。
男は、少しだけ考え。
「勝てる」
一拍。
「だが」
「勝てない」
静かな答え。
矛盾している。
だが。
真実だった。
「……それでもやるのですね」
「ああ」
「終わらせる」
それだけだった。
一方。
レグナス。
「……来るな」
小さく呟く。
「わかるのか」
「わかる」
短く答える。
「次は正面だ」
帝国は気づいた。
崩せないと。
だから。
来る。
「……いい」
静かに言う。
「それでいい」
構造は完成した。
あとは。
「終わらせるだけだ」
帝国を。
完全に。




