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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第423話「宿場の水桶」

セラフィス聖王国の中心へと続く主要街道。その中継所にある馬宿で、老馬喰のバルトは、レグナスの商人から寄贈された「木製の大型水桶」に水を満たしていた。


「バルト親方、この水桶、底に妙な傾斜がついていて、水が腐りにくいですね」


弟子が井戸から水を汲み上げながら、感心したように声をかけてきた。


「ああ。レグナスの杉材は香りがいい。馬たちも喜んで水を飲んでいるよ」


バルトは満足して、宿場の馬たちに次々と水をあてがっていった。この便利な水桶は、両国の「親善の印」として無償で各地の馬宿に配られ、瞬く間に街道全体の標準設備となっていった。


しかし、バルトはその水桶がもたらす「真の影響」にまでは気づいていなかった。


この水桶の底の傾斜は、馬が一度に飲める水の量を、通常よりもほんの数口分だけ「少なく制限する」ように精密に設計されていたのだ。喉を潤す分には何の問題もない。だが、軍馬のような大型の獣が、急激な速度で長距離を駆け抜けるために必要な大水量を一気に摂取しようとすると、微妙に時間がかかる構造になっていた。


つまり、聖王国の騎兵部隊が、急報を受けてこの街道を最高速で駆け抜けようとした際、馬の給水時間が数分ずつ遅れることになる。


「これで仕事が少しは楽になる」


弟子が笑う。


バルトは水桶の周りを掃除し続けた。城壁を高く築き、兵を鍛える必要はない。ただ他国の馬の喉を「親切な利便性」で満たしてやるだけで、聖王国の機動力の限界は、レグナスの帳簿の中で完全に行動を制限されていた。

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