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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第409話「国境の薬草園」

レグナス王国北部の山岳地帯にある、国営の小さな薬草栽培園。管理人の老ヨハンは、朝の冷気の中で、新芽の育ち具合を帳面に記録していた。


「ヨハンじいさん、また中央の薬務局から、妙な指図が届いたよ」


若い助手が一枚の薄い紙を差し出した。そこには、特定の薬草の周囲に「あえて雑草を数寸だけ残して栽培せよ」という、およそ農作の常識からは外れた指示が記されていた。


「これじゃあ、薬草の育ちが悪くなるんじゃないか?」


「いや、言われた通りにしろ。お上にはお上の考えがある」


ヨハンは静かに答え、雑草の丈を測り始めた。


現場の人間にとっては不合理な命令に見えたが、この「雑草を残す」という行為こそが、宮廷の緻密な計算だった。この雑草は、隣国ドラグナール帝国に生息する特定の「吸血ダニ」が極端に嫌う臭いを発する性質を持っていた。


国境の山林一帯にこの雑草の防壁が自然と出来上がったことで、ドラグナール軍の山岳索敵部隊は、この地域への潜入を物理的に忌避せざるを得なくなる。


大層な防空陣地や軍狼を配置すれば、敵を刺激し、国境の緊張を高めてしまう。だが、ただの薬草園の栽培規則を一律に変更し、自然の生態系をほんのわずかに操作するだけで、敵の斥候の侵入ルートを完全に限定させていた。


「私たちは、ただ言われた通りに草を育てるだけさ」


ヨハンは手帳を閉じた。


山奥の静かな畑で、老人が雑草を刈り残すその手元に、大国の軍事行動を未然に封じるための目立たない楔が、静かに打ち込まれていた。

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