第408話「世界の針」
アルカディア、グランヴェルド、セラフィス、ドラグナール。大陸を支える四大国の首脳たちは、未だにレグナス王国という存在の本当の「不気味さ」に気づいていなかった。
彼らの宮廷では、現在の世界の平穏を、歴史上まれに見る「奇跡の均衡」として称賛していた。
どこかの国が兵を動かそうとすれば、ただの水車の回転や、藁の寝床の心地よさ、あるいはイナゴの発生予測によって、その足取りは戦う前に止められる。世界は、あまりにも精密に作られた時計の歯車のように、崩壊を回避し続けていた。
レグナス王国は、歴史の表舞台で一度も主役を演じたことはない。王家もまた、自分たちの身の丈に合った実直な統治を続けているだけだ。
しかし、その国王の玉座のすぐ後ろ。
誰の名前も残らない欄外の場所に、毎日淡々と数字を書き込み、役所の書類の規格を一律に変え、世界全体の呼吸のテンポを整え続けている一人の宰相がいた。
彼は決して王にはならない。王を不要にしない。ただ、自分を最初に認めてくれたこの国が、永遠の平穏の中に留まり続けるために、世界の針を裏側から動かし続ける。
後世の歴史家たちが、残された膨大な公文書の「数字の整合性」を前にして、初めてその男の異常性に気づき、恐怖で筆を震わせるその日まで。世界の針は、今日もその掌の上で、静かに、優しく、狂いなく回り続けていた。




