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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第407話「商人の帳簿」

セラフィス聖王国の活気あふれる市場。その一角にある大商会の執務室で、二人の番頭が、最新の取引帳簿を突き合わせて頭を抱えていた。


「やっぱりおかしい。レグナスから買い付けている『硝石』の決済が、毎回この端数でぴたりと止まる」


一人の番頭が、算盤の珠を何度も弾き直しながら言った。


「決済が止まる? 支払いが遅れているということか?」


「いや、支払いは完璧だ。ただ、決済が完了する『曜日』が、必ず隔週の木曜日の午後に固定されているんだ。こちらの資金移動のタイミングを、向こうが完全に見計らっているかのようにね」


二人は冷めた珈琲を口に含み、沈黙した。


硝石は、軍用の火薬を作るための最重要資源だ。聖王国の軍部は、レグナスの商人を通じてこれを仕入れていたが、その資金が動く曜日が固定されたことで、聖王国全体の「軍事予算の流動性」が、実質的にレグナス側に完全に把握される形になっていた。


彼らが今、どれだけの金を持ち、いつ次の買い付けに動くのか。


レグナスの宮廷は、商人の帳簿の決済日をほんのわずかに誘導するだけで、聖王国の防衛計画の「呼吸」を完全にコントロールしていたのだ。


「私たちは、ただ商売をしているだけのはずなのに……」


番頭は帳簿を閉じた。


そこには何の不正もない、合法的な取引の数字だけが並んでいる。しかしその数字の配列こそが、自国の主導権を少しずつ、しかし確実に隣国へと明け渡していく、静かなる拘束衣のようだった。

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