第406話「ジョーカーの孤立」
アルカディア帝国が誇る、大陸最強の軍事集団「ジョーカー騎士団」。その第六席を務める若き天才騎士は、帝都の演習場で、愛剣を地面に突き立てて悔しさに歯噛みしていた。
「なぜだ! 我が小隊の出陣要請が、またしても宮廷の文官どもに却下された!」
傍らに立つ副官は、ため息をつきながら理由の書類を読み上げた。
「レグナス国境沿いの領地で、現在、大規模な『イナゴの大量発生』が予測されており、騎士団の移動ルート上にある全宿場町において、兵糧の強制徴発が一時的に禁止されたためです。軍馬の飼料が確保できません」
「イナゴだと? そんなものは我が騎士団の進軍には関係ない!」
「関係あります。万が一、我々が進軍して現地のわずかな備蓄を消費すれば、領民の飢えは確実となり、帝国の統治への不満が爆発します。宮廷はそれを恐れているのです」
騎士は激しく拳を壁に叩きつけた。
ジョーカー騎士団は、その名前だけで大陸の勢力図を塗り替える力を持っている。だが、その圧倒的な破壊力も、ただの「虫の発生予測」という、自然災害の前には完全に無力だった。
彼らは気づいていない。そのイナゴの発生予測のデータを、一ヶ月も前に帝国の文官たちの机に、匿名の手紙として届けさせた存在がいることを。
戦うことも、牙を剥くこともない。ただ正しい自然のデータを適切なタイミングで他国の宮廷に流すだけで、最強の騎士団の足は、完全に縛り付けられていた。
世界の天井と謳われた武力は、一国の静けさを守るための、ただのチェスの駒として、今日も虚しく演習場に留まるしかなかった。




