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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第405話「港の案内人」

レグナス王国最大の臨海都市。港の水先案内人を務める老ギルは、夜明けの霧が立ち込める桟橋で、パイプの煙をくゆらせていた。


「ギルさん、今日もアルカディアからの商船が五隻、港外で待機しています。どの順番で案内しますか?」


若い助手が、入港の予定表を抱えながら尋ねてきた。


「ああ、いつも通り『一等インク』を積んだ船を最優先にしろ。その後に、香料と布地だ」


ギルは霧の向こうから現れる船影を冷ややかに見つめた。


半年前、中央の宮廷から「港湾効率化のための推奨手順」という書状が届いた。そこには、特定の品目を積んだ船の入港順序を細かく指定する、一見するとただの荷下ろしの利便性を追求しただけのルールが書かれていた。


だが、ギルはその順番がもたらす「真の結果」を知っていた。


最優先で一等インクの原材料が下ろされることで、王都の写本室や行政機関は、常に最高の状態で書類を量産できる環境が維持される。一方で、他国が市場を独占しようと目論んでいた高級布地の船は、常に半日ほど港外で待たされることになった。


そのわずかな待機時間の間に、船倉の湿気によって布地の品質は微かに落ち、市場での価値を下げる。


「ただの順番待ちだ。文句を言われる筋合いはねえよ」


ギルは不敵に笑った。


他国の商人は、それを単なる港の混雑のせいにして諦めている。だが彼らは、レグナスの港に足を踏み入れた瞬間から、その商品の価値にいたるまで、宮廷の欄外にある見えない天秤によって、完璧にコントロールされているのだ。

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