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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第404話「地方役人の引き出し」

レグナス王国東部の辺境都市。役所の最下層にある文書室で、地方文官のカドルは、古い帳簿の引き出しに鍵をかけていた。


「カドルさん、また中央から、新しい『公共林の薪拾いに関する規則』が届きましたよ」


同僚のフィアスが、分厚い公報を机に置きながら呆れたように言った。


「今度は何だ? 拾っていい枝の長さにでも制限がついたか?」


「いえ、長さではなく『拾う時間帯』です。正午から午後三時までの間しか、森に入ってはならないという、何とも奇妙な制限です。違反しても大した罰金はないのですが」


カドルは公報を手に取り、その文言をじっと睨みつけた。


普通の役人なら、また中央の悪癖である「無駄な管理の乱発」だと吐き捨てるだろう。しかし、カドルがその指定された森の場所を地図で確認したとき、その真意に気づいて息を呑んだ。


その公共林は、隣国ドラグナール帝国の偵察部隊が、国境を越えて潜入する際の「隠れ蓑」として最もよく利用される地帯だった。


正午から午後三時までの間、地元の農民たちが一斉に森に入って薪を拾えば、森の中には無数の「人間の目と足音」が存在することになる。偵察部隊は、農民たちに見つかるリスクを恐れ、その時間帯の行動を完全に制限されるのだ。


「私たちはただ、規則通りに農民へ触れ回るだけだ」


カドルは公報を引き出しに収めた。


兵を配備して国境を監視するのではない。ただ「薪拾いの時間」という、あまりにも生活に密着したささやかな規則を一つ作るだけで、他国のプロの密偵たちの動きを、完璧に封じ込めていた。

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