第40話:揺らぐもの
広がっていた。
静かに。
だが、確実に。
――噂が。
「……遅い」
小さく呟く。
手は打っている。
流れも読んでいる。
だが。
「止まらない」
報告書を閉じる。
内容は同じ。
「税収減」
「物流混乱」
「民の不安」
「……全部かよ」
バルガスが吐き捨てる。
「完全にやられてるな」
「ああ」
否定しない。
帝国の狙いは正しい。
外からは崩せない。
だから内側から。
「で、どうする」
バルガスが問う。
「押さえる」
「力でか?」
「違う」
首を振る。
「逆効果だ」
恐怖はもう効かない。
ここまで来た国には。
「……じゃあどうすんだ」
一拍。
「時間を使う」
それしかない。
「……持つのか?」
その問い。
「持たせる」
そう答える。
だが。
その時だった。
「報告!」
兵が駆け込む。
「西方管理区にて、管理責任者離脱!」
「……誰だ」
「元エルド地区の――」
止まる。
あの男だった。
「……そうか」
短く呟く。
「……おい」
バルガスが低く言う。
「マジかよ」
信頼していた人材。
それが、抜けた。
「理由は」
「……不明」
静寂。
だが。
「……違うな」
小さく呟く。
「恐怖だ」
理解できる。
帝国が触れた。
“責任”に。
「……効いてるじゃねぇか」
バルガスが言う。
「お前のやり方」
否定できない。
その時だった。
「カイン」
また、ルナ。
「……一つ聞いていい?」
「何だ」
「本当に」
一拍。
「大丈夫?」
沈黙。
初めて。
答えが、遅れた。
「……問題ない」
だが。
「……違う」
ルナが、首を振る。
「今回」
「今までと違う」
その言葉。
否定できなかった。
「……ああ」
小さく、認める。
これは。
今までと違う。
初めて。
“崩されている”。
「……どうするの」
ルナの声。
一拍。
「……まだだ」
静かに言う。
「終わっていない」
だが。
これは。
間違いなく。
最大の危機だった。




