第39話:綻び
最初は、小さな違和感だった。
報告書。
数字が、合わない。
「……遅れているな」
小さく呟く。
「何がだ?」
バルガスが問う。
「物流だ」
「三日前から」
指で紙を叩く。
「西方」
「北方」
「両方で同時に遅延」
「……偶然じゃねぇな」
バルガスが目を細める。
「そうだな」
短く答える。
偶然ではない。
「内部だ」
確信する。
その時だった。
「報告!」
兵が駆け込む。
「南方地区にて、税収拒否!」
「……理由は」
「不信感です!」
静寂。
「……早いな」
小さく呟く。
広がるのが。
「誰かが流している」
「噂を」
帝国だ。
確実に。
「どうする」
バルガスが問う。
一拍。
「止めない」
「……は?」
「今は動くな」
「余計に広がる」
だが。
「……大丈夫か?」
バルガスの声が低くなる。
珍しい。
不安だ。
「問題ない」
そう答える。
だが。
完全ではない。
その違和感。
自分でも、わかっている。
そして。
さらに。
「報告!」
まただ。
「北方にて暴動!」
「西方でも同様の動き!」
「……同時か」
静かに呟く。
完全に仕組まれている。
「……来てるな」
「ああ」
帝国が。
内側から。
その時だった。
「カイン」
声。
ルナだった。
「……大丈夫?」
少しだけ。
間があった。
「問題ない」
答える。
だが。
「……嘘」
即答だった。
「顔、違う」
沈黙。
「……そうか」
否定しない。
「珍しいね」
「カインが迷うの」
その言葉。
「迷ってはいない」
だが。
「遅れている」
それが正しい。
「……そっか」
ルナは、それ以上言わない。
ただ。
「気をつけて」
それだけ残して。
去っていく。
静寂。
そして。
「……崩しに来たな」
小さく呟く。
これは。
戦ではない。
“崩壊”だ。
しかも。
内側から。
止めるのは難しい。
だが。
「……問題ない」
静かに言う。
まだ。
終わっていない。




