第38話:理解者
帝国軍本陣。
静かだった。
戦は始まっている。
だが。
騒がしさはない。
「……予定通りか」
男が呟く。
地図の上。
レグナス軍は動かない。
「はい」
副官が答える。
「分断は成立していません」
「当然だ」
短く返す。
「奴は分かれて動かない」
それは、理解している。
「ならば」
「次に移る」
静かな声。
「第二段階だ」
副官が、わずかに息を呑む。
「本当にやるのですか」
「やる」
迷いはない。
「これは戦ではない」
「実験だ」
その言葉。
異常だった。
「……宰相カイン」
「戦わない男」
「合理で動く男」
一つ一つ。
積み上げてきた情報。
「ならば」
「合理で崩す」
当然の結論。
「だが」
一拍。
「奴は、合理の外にもいる」
そこが問題だった。
「……外?」
「感情を切り捨てる」
「だが」
「完全ではない」
静かな分析。
「責任だけは残している」
それが、弱点だ。
「そこを突く」
副官が、目を細める。
「……つまり」
「人を使う」
短く答える。
「奴が守るもの」
「それを揺らす」
それは。
戦ではない。
“崩壊”だ。
「……なるほど」
副官が頷く。
「では」
「内部へ?」
「ああ」
「すでに仕込んである」
静かな言葉。
「時間の問題だ」
その時。
「報告!」
兵が駆け込む。
「レグナス軍、動かず!」
「……そうか」
わずかに口元が上がる。
「いい」
「動くな」
その方がいい。
時間は、こちらの味方だ。
「……宰相カイン」
小さく呟く。
「お前は、完成している」
「だからこそ」
「壊れる」
静かな断定。
戦は。
次の段階へ進む。
内側から。
崩すために。




