表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
396/442

第398話「診療所の棚」

アルカディア帝国の東部国境沿いにある、うらぶれた街の私立診療所。老医師のマルクは、薬棚の引き出しを開け、中に並ぶ小瓶の数を数えていた。


「先生、またレグナスの行商人から、傷薬の軟膏が安く手に入りましたよ」


若い看護師が、新しく届いた箱を机に置きながら嬉しそうに言った。


「ああ、助かるな。これがあれば、貧しい炭鉱夫たちからも大した治療費を貰わずに済む」


マルクは瓶の蓋を開け、独特の油の匂いを確認した。品質は極めて高く、帝国の軍医たちが使うものと遜色がない。なぜこれほどの良品が、一介の行商人を通じて、帝国の辺境にこれほど大量に流れ込んでくるのか、マルクには分からなかった。


国境の関所では、薬品の輸出入には厳しい検査と高い税が課されているはずだった。


だが、レグナスの商人たちが持参する通関書類には、常に「家庭用の香油」という名目が使われ、現地の役人もそれ以上の追及をせずに印を押していた。役人たちは、商人から渡されるささやかな袖の下で満足し、ただの小遣い稼ぎだと思っている。


しかし、その結果として、帝国の辺境民の健康と命は、自国の宮廷ではなく、レグナスの物資によって維持される形になっていた。


民衆の間では、高い税を貪るだけの帝国の統治よりも、安くて効く薬を運んでくるレグナスへの、無言の信頼が草の根のように広がっている。


「国が何を考えているかは知らんが、病人が治るならそれでいいさ」


老医師は瓶を棚に並べた。


大仰な宣撫工作も、国境の変更も行われていない。ただ一瓶の軟膏が、帝国の足元にある民の心を、静かに、確実に侵食していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ