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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第393話「兵士の水筒」

セラフィス聖王国の最前線基地。夜間巡回を終えた兵士のコートは、詰所のベンチに座り、革製の水筒を傾けていた。


「おいコート、レグナスとの国境沿いにあるあの『無料の水場』、もう使ってみたか?」


同僚のベルムが、暖炉の火で暖を取りながら声をかけてきた。


「ああ、使った。国境のすぐそばに、誰でも自由に使える綺麗な井戸が掘ってあるやつだろ。旅の商人も、俺たちみたいな兵士も、みんな重宝してるさ」


コートは水筒の蓋を閉めた。


レグナス側は、それを「旅人の安全と、両国の親善のため」として設置したと言っている。兵を配置するわけでもなく、ただ清潔な水場を維持しているだけだ。だが、コートは偵察兵としての勘で、その水場の配置に奇妙な意図を感じていた。


その井戸がある場所は、国境地帯で最も「見晴らしの良い、遮るもののない平地」の中心だった。


聖王国の兵士たちが、喉を潤すためにその水場に集まるたび、彼らの部隊の規模や、装備の磨耗具合、さらには兵士たちの表情の疲労度までが、遠くから完璧に観察できるようになっていたのだ。


彼らはただ、親切に提供された水を飲んでいるだけ。


しかしその日常の動作そのものが、隣国へ自軍の情報を垂れ流す窓口にされている。コートは水筒の中に残る水の冷たさに、戦場での刃以上の、底知れぬ恐ろしさを感じていた。

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