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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第392話「地方役人の手帳」

レグナス王国南部の、のどかな田園地帯。地方役人のトベムは、街道沿いのベンチに腰掛け、古い手帳を開いていた。


彼の目の前では、新しく敷設された「灌漑用の水路」が、サラサラと音を立てて澄んだ水を運んでいる。


「去年までに比べて、村の揉め事がきれいにゼロになったな」


トベムは手帳の記録を見つめながら呟いた。


以前はこの地域でも、水の分配を巡って小作人同士の激しい喧嘩や、領主への直訴が絶えなかった。それが、半年前に行われた「何でもない水路の拡張工事」以来、すべての田畑に均等に、一滴の無駄もなく水が行き渡るようになったのだ。


工事の図面は、中央の宮廷から直接送られてきたものだった。


その図面は、現地の地形や高低差を、まるで神の目でも持っているかのように完璧に把握し、設計されていた。揉め事が消えたことで、トベムの仕事は劇的に減り、村の税収は自然と上がった。


「上にいるお偉方は、本当に大したものだ」


トベムは手帳を閉じ、空を見上げた。


彼にとっては、ただ自分の管轄が平和になり、仕事が楽になっただけのことだ。しかし、この「揉め事の解消」こそが、国全体の統治の基礎を盤石にし、外敵が付け入る隙を完全に失わせている。


大仰な法律を作るのではない。ただ水路を一本通すだけで、民衆の心を静かに平穏へと導く。その目立たない仕事の集積が、この国の本当の姿だった。

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