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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第391話「港の荷札」

レグナス王国東部の主要な貿易港。港湾役人のカドルは、夕暮れ時の桟橋で、他国から到着した大量の荷馬車を検品していた。


「カドルさん、この荷札、何て書いてあるんですか?」


若い荷役人が、アルカディア帝国から届いた木箱を指さした。そこには、帝国の公式な軍用紋章が刻印されていたが、その上からレグナスの簡易な「民間物資」の荷札が、雑に貼り付けられていた。


「気にするな。中身はただの『乾燥イチジク』だ。帳簿にもそう記録してある」


カドルは淡々と印を押した。


このイチジクは、帝国の前線基地の兵士たちへ支給されるはずだった軍糧の余剰分だ。帝国の兵站役人が、私腹を肥やすためにレグナスの商人と結託し、秘密裏に民間に横流しした代物だった。


カドルは、この汚職のルートをあらかじめ把握し、あえて「見逃す」ことで、帝国の軍糧の備蓄が「今、どの程度目減りしているか」を正確に把握していた。


戦って敵の兵糧庫を焼く必要はない。敵の役人の欲を少しだけ甘やかし、荷札を一枚貼り替えさせるだけで、帝国の軍事的な体力は内側から勝手に削ぎ落とされていくのだ。


「甘いイチジクだ。みんな大好きなのさ」


カドルは呟いた。


荷馬車は、静かに王都の市場へと向かって走り去っていった。誰もがそれを、ただの平和な交易の風景だと信じて疑わなかったが、その荷札の裏側には、一国の武力を無力化する冷徹な計算が隠されていた。

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