第389話「兵士の防具」
アルカディア帝国の辺境守備隊。詰所の薄暗い一室で、古参の重装歩兵であるコートは、支給されたばかりの「新しい胸当て」を磨いていた。
「おいコート、今回の防具、やけに軽い上に鉄の肌が綺麗だな」
同僚のベルムが、自分の槍の手入れをしながら話しかけてきた。
「ああ。レグナスの商人から買い付けた、新しい合金だそうだ。あそこの技術力は、いつの間にか帝国の最新鋭を凌駕しているらしい」
コートは胸当ての表面に映る、自分の冴えない顔を睨みつけた。
防具が軽くなったことは、最前線の兵士にとっては命を救われるような有難い話だ。長時間の進軍でも体力が削られず、敵の刃を弾く硬度も十分に備わっている。
しかし、コートの胸には、拭いきれない冷たい違和感が残っていた。
この防具の供給が始まって以来、帝国の兵站部は、自国の古い製鉄所をいくつも閉鎖し、予算をレグナスからの輸入へと一本化し始めていた。自国で作るよりも、隣国から買った方が圧倒的に安く、品質が良いからだ。
それは、帝国の武力の結晶である重装歩兵の「命の盾」が、実質的にレグナスの工場の稼働状況に依存することを意味していた。
「戦が始まれば、向こうは真っ先にこの鉄の供給を止めるだろうな」
ベルムが冗談めかして言った。
コートは何も答えなかった。すでに自分たちの命は、戦う前から、隣国の帳簿の上で「管理された数値」の一部になっている。磨き上げられた胸当ての輝きが、まるで自分たちを嘲笑っているかのように冷たかった。




