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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第386話「職人の目利き」

セラフィス聖王国の職人街にある製紙工房。親方のバルトは、仕上がったばかりの羊皮紙を光に透かし、その厚みを確かめていた。


「親方、今月もレグナスの卸商から、大量の木材パルプが格安で届きましたよ」


若い弟子が、倉庫から重そうな束を運び込みながら声をかけてきた。


「ああ。品質も悪くない。だがな、これだけ安く原材料が手に入ると、うちの工房も、隣の工房も、みんなレグナスの材料しか使わなくなる」


バルトは羊皮紙を机に置き、深く息を吐き出した。


聖王国は歴史や宗教の記録を極めて重視する国だ。そのため、国内で消費される紙の量は膨大だった。そこへレグナスが、自国の豊かな森林資源を利用して、驚くほど安定した価格で「紙の原料」を供給し始めたのだ。


一見すると、聖王国の文化事業を支える親切な交易にしか見えない。


だが、バルトのような古参の職人は、その裏にある不気味さに気づいていた。紙の原材料を完全にレグナスに依存するということは、聖王国のすべての公文書、すべての聖典、すべての情報伝達の「物理的な限界」を、隣国に握られるということだ。


もしレグナスが供給を止めれば、聖王国の行政は数ヶ月で麻痺する。


「ただの紙切れ一枚に、国中が躍らされているわけだ」


バルトは再び作業に戻った。


大層な兵器や魔法ではない。職人の欲と、安さという利便性を突くだけで、聖王国の知的生命線は、レグナスの宮廷の帳簿の中にひっそりと組み込まれていた。

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