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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第383話「商人の杯」

レグナス王国南部の賑やかな交易都市。その中心部にある高級酒場の個室で、二人の行商人が杯を交わしていた。


「聞いたか? 来月から、西の街道沿いの宿場町で、一律に馬の『蹄鉄の交換費用』が半額になるらしいぜ」


一人の商人が、美味そうにワインを飲みながら言った。


「半額? それは助かるが、なんでまた急にそんなところを下げるんだ」


向かいに座った年配の商人が、不思議そうに眉をひそめた。


「さあな。役所の説明じゃ、地元の鉄ギルドへの補助金が出たからだって話だ。おかげで俺たちの商隊も、来月からはもっと頻繁に西へ荷を運べるようになる」


若い商人は満足そうに笑った。


だが、年配の商人は自分の財布を見つめながら、静かに考え込んでいた。蹄鉄の費用が下がれば、すべての商人が西のルートを選ぶようになる。その結果、これまで使われていた他国経由の「東の山道」は完全に放置され、あちらの宿場は急速に寂れていくだろう。


それは、剣を交えることなく、他国の物流の拠点を一方的に干上がらせる行為だった。


レグナスは何も強制していない。ただ、商人たちが「自分の利益」のために自発的に動くよう、ほんのわずかな数字の仕掛けを施しただけだ。気づけば、大陸全体の物流の主導権が、この国に集約されていく。


「得をしているはずなのに、なんだか気持ちが悪りいな」


年配の商人は杯を置いた。


窓の外では、今日も多くの荷馬車が、新しく整備された街道へと向かって、吸い込まれるように走り去っていった。

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