第381話「兵士の詰所」
セラフィス聖王国の最前線守備隊。詰所の薄暗い一室で、古参の兵士コートは、新しく支給された「兵糧の干し肉」を噛み締めていた。
「おいコート、今回の肉、いつもより少し塩気が薄くないか?」
同僚のベルムが、水筒を片手に不満げに言った。
「ああ。だが、その代わりに保存性が上がっている。これなら、夏の湿気た時期でも三ヶ月は腐らないはずだ」
コートは干し肉の断面を凝視した。この特殊な製法は、レグナスの商人から伝わったものだという。聖王国の軍部は、その実用性の高さに目をつけ、今期の兵糧の調達をすべてその製法に切り替えた。
「戦をしない国なのに、なんでそんな便利なものを作れるんだか」
ベルムは笑い飛ばしたが、コートの胸には奇妙な引っかかりがあった。
保存性が上がったことは、兵士個人にとっては有り難い。しかし、軍全体の視点で見れば、兵糧の維持管理が以前よりも「容易になりすぎた」のだ。管理が楽になれば、上層部は備蓄の総量を正確に把握しなくなり、民間の業者への委託がさらに増える。
そして、その委託業者の筆頭にいるのが、レグナスに深い繋がりを持つ大商人たちだった。
聖王国の軍隊が、いつ、どこへ向けて、どれだけの期間動けるのか。そのすべての前提となる兵糧の限界が、レグナスの商人たちの帳簿の中で、あらかじめ「逆算」されていることになる。
「美味い肉だが、少し喉が渇くな」
コートは水筒の水を流し込んだ。
胃に収まった兵糧が、見えない糸となって自分たちの足を縛り付けているような、説明のつかない不気味さが、詰所の静寂の中に漂っていた。




