表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
372/442

第374話「深夜の荷役」

セラフィス聖王国の河川港。夜霧が立ち込める中、一隻の無籍船が音もなく桟橋へと滑り込んできた。


港の税関役人であるマルセルは、ランタンの光を抑えながら、船倉から運び出される木箱の数を目で追っていた。


「おい、本当にこの荷に税をかけなくていいんだな?」


船頭が不気味なほど低い声で囁いた。木箱の中身は、すべてレグナス国内の鉱山から切り出された「極上の黒炭」だった。冬の暖房には欠かせない必需品であり、聖王国の貴族たちが高値で買い漁る代物だ。


「上からの厳命だ。この船の荷はすべて『臨時備蓄』として処理する。帳簿には記載しない」


マルセルは淡々と答えた。


この不記載の処理は、一週間前に聖王国の財務次官から直接下された、非公式な命令に基づいている。次官自身、レグナスの商人から「個人的な貸し」を相殺する条件として、この炭を無税で受け入れるよう持ちかけられたのだ。


次官にとっては、懐を痛めずに莫大な利益を得るだけの簡単な仕事だった。


しかし、その結果として、聖王国の市場にはレグナス製の安価な黒炭が大量に、そして秘密裏に供給されることになる。聖王国独自の炭鉱ギルドは価格競争に敗れ、徐々に操業短縮へと追い込まれていく。


「何が目的だか知らんが、美味い汁を吸えるうちは文句を言うな、か」


船頭は鼻で笑い、次の箱を運ばせた。


誰も戦を仕掛けていない。ただ、一人の汚職役人の欲を突つくだけで、聖王国の主要産業の土台が、夜霧の中で少しずつ削り取られていた。マルセルはただ、消えゆく炎のような数字を、闇の中で見つめ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ