第370話「ジョーカーの噂」
アルカディア帝国の最精鋭、大陸の力の天井と称される「ジョーカー騎士団」。その第三席を務める重騎士のレオンは、帝都の兵舎で自身の漆黒の鎧を磨いていた。
「レオン様、次の任務地が変更となりました。東部国境ではなく、急遽南方の反乱鎮圧へ向かえとのことで」
部下が慌ただしく持ってきた指令書を、レオンは一瞥した。
「……またレグナス国境から遠ざけられたか」
レオンの声には、隠しきれない苛立ちが混じっていた。ジョーカー騎士団は、その名前が戦場に響くだけで敵が潰走する、言わば国家の災害兵器である。本来であれば、近年不気味な安定を見せるレグナス王国に対し、最大の圧力をかけるために国境へ配置されるはずだった。
しかし、過去二年にわたり、彼らがレグナス国境へ近づこうとするたびに、必ず別の場所で「緊急性の高い事件」が発生し、進路を阻まれてきた。ある時は帝都の暴動、ある時は南方の干ばつによる一揆。すべては偶然の災害に見える。
だが、その発生のタイミングは、まるでジョーカー騎士団の動きを完全に予知し、レグナスから意図的に遠ざけているかのようだった。
「我々が出陣すれば、どのような国であれ一戦で灰にできる。だが……」
レオンは磨き終えた大剣を見つめた。戦う機会すら与えられず、ただ名前の圧力を温存されたまま、世界の均衡装置として別の場所で消費されている。レグナスの外側で、この最強の騎士団すらも「事件の駒」として配置をコントロールしている見えない意志に、レオンは激しい屈辱と、それ以上の恐怖を覚えていた。




