第369話「兵士のぼやき」
グランヴェルド王国の前線基地。夜の検問所で、二人の兵士が槍を突き立てたまま、冷たい風に身を縮めていた。
「なあ、今週から支給されたこの新しい外套、妙に軽くて温かいと思わないか?」
一人の若い兵士が、首元を触りながら同僚に話しかけた。
「ああ。中綿がいつもと違うらしいな。何でも、レグナスの商人から大量に安く買い叩いた代物だそうだ」
「レグナスか……。あそこは数年前まで、我が国がいつでも攻め落とせるような、ひ弱な国だったはずだろ。なんでそんな国から、うちの軍の物資を仕入れているんだ?」
先輩の兵士は、暗い闇の向こうの国境線を見つめた。
「仕入れているんじゃない。向こうが、我が国の商人に『買わせている』んだよ。この中綿を輸入する関税だけを、レグナス側が異常なほど下げた。だから我が国の商人がこぞって買い付け、結果として俺たちの軍服までレグナス製になった」
「安くて良いものが手に入るなら、いいことじゃないか」
若い兵士が笑った。だが、先輩兵士の表情は晴れなかった。軍の防寒具の供給を、実質的に潜在的な敵国に握られているのだ。もし明日、レグナスがその中綿の輸出を止めれば、グランヴェルドの冬の進軍計画は、戦う前から凍結せざるを得なくなる。
「俺たちは、温かい服を着せられながら、動けないように縛られているのかもしれんぞ」
先輩兵士の言葉に、若い兵士はそれ以上何も言えなくなった。ただ、新しい外套の温かさが、急に冷たく感じられるようだった。




