第367話「港の変化」
レグナス王国最大の貿易港である、東部臨海都市の港湾長ヘンリックは、夜明け前の桟橋で霧の向こうを見つめていた。
「港長、今日もアルカディアからの大型船が三隻、定刻通りに入港します」
部下の報告に、ヘンリックは無言で頷いた。半年前まで、この港は押し寄せる荷馬車と船の積み下ろしの順番待ちで、常に怒号が飛び交う混乱の極みにあった。物資が滞り、腐敗する食料も少なくなかった。
しかし、現在の港は驚くほど静かだ。
船が到着するのと同時に、待機していた荷馬車が寸分の無駄もなく動き出し、物資は市内の倉庫へと流れるように吸い込まれていく。ヘンリックがやったことは、積み下ろしの区画をほんの少し変更し、荷役人たちの休憩時間を三十分ずらしただけだった。
それは、一ヶ月前に上層部から届いた「港湾労働者の健康に関する推奨状」に書かれていた、何気ないアドバイスに従った結果だった。ただの体調管理の勧めだと思って実行したところ、港全体の物流効率が、まるで手品のように二倍に跳ね上がったのだ。
「誰がこの配置を考えたのだろうな」
ヘンリックは、整然と動く荷役人たちの背中を眺めた。現場の人間すら気づかないうちに、たった数行の推奨状で港全体の構造を作り変えてしまう。その変化はあまりに自然で、誰もが「自分たちが効率よく動いているだけだ」と思い込んでいる。
「恐ろしい男が上にいるものだ」
ヘンリックは帳面に受領の印を押し、霧の向こうから現れる巨大な船影を静かに見つめていた。




