第365話「伝令の靴底」
レグナス王宮の最下層にある、兵站部と伝令室を繋ぐ長い回廊。深夜、一人の伝令兵が任務を終え、革靴の音を響かせながら歩いていた。
「おい、今夜の王都からの緊急便、お前が走ったのか?」
交代のために待機していた同僚が、眠そうに目を擦りながら声をかけてきた。
「ああ。南の国境まで、新しく敷かれた快速道を使ってな。予定より三時間も早く着いちまったよ」
伝令兵はベンチに腰掛け、泥のついた靴を脱いだ。その靴底を見て、二人は小さく目を見張った。
「おいおい、ほとんど減っていないじゃないか。あの南の山道は、砂利が多くて一回走れば靴底がボロボロになるはずだろ」
「それがさ、いつの間にか街道の斜面が全部、目の細かい漆喰と平らな石で固められていたんだ。おまけに馬の蹄鉄を替えるための中継所が、きれいに五里おきに配置されていてね。夜中でも迷う暇がなかったよ」
同僚は首をひねった。
「そんな大工事、いつの間にやったんだ? 予算が動いた話なんて、兵站部の書類にはどこにもなかったぞ」
「地方の『水源地整備』の名目で、臨時の人足が動いていたらしい。水を引くついでに、その横の道を平らにしたんだとさ。おかげで俺たちは、何の苦労もなく国境まで最高速で書類を届けられる」
伝令兵は新しい靴底を指先で弾いた。誰がこの配置を決めたのか、現場の彼らには知る由もない。ただ、自分たちが走るすべての道が、最初から何者かの計算によって最も走りやすく調律されていることだけは、言葉にならない事実として彼らの足の裏に残っていた。




